「秋の新製品に見るアップル社の思惑(2)」 by. 大谷一利



「秋の新製品に見るアップル社の思惑──つづき」
2009年9月10日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

「歩数計」は親世代をも魅了?

歩数計については、世の中の健康志向にマッチする機能であるだけでなく、これまで日本の一部製品を除いては若者(特に若い女性)向きの製品がなかったため、iPod nanoのデザインと組み合わさったことで、購入のポイントとなる可能性は十分にある。また、単なる歩数カウントではもの足らなくなるときが来れば、Nike+iPodへの誘い水としても機能するだろう。


iPod nanoにも歩数計が搭載されNike+iPodに対応した

さらにクリスマスギフトという意味では、若者が自分の親にプレゼントするといった需要も見込める。親の世代にとって母艦となるコンピュータやNike+iPodは壁が高くとも、子供たちがプリセットしてくれた音楽を聴いたり、歩数計として利用するなら、iPod nanoを生活の中に採り入れられる。BGMをイヤフォンで聴きながら健康維持のためのウォーキングをするのは、十分に考えられるシナリオだ。


「FMラジオ」機能は日本でもフル対応が望まれる

FMラジオに関しては、これまでiTunes Storeからの音楽ダウンロードと相反するところがあり、標準仕様としては対応してこなかった経緯が見られた。しかし、今やiTunes Storeは、全米音楽販売シェアの25%を占めるまでになり、2位以下に10%以上の大差をつけて堂々のトップ。ダウンロード販売に限れば、実に69%の市場を押さえており、2位でシェア8%のアマゾンに大きく水をあけている(どちらもNPDグループ調べ)。

こちらも、ここまでブランド化した以上、FMラジオとの競合は考える必要がなくなり、逆にそれを取り込んで商品の魅力を高める方向に踏み出したといえる。

Live Pauseは、アップル流にスタイリッシュな機能名としているが、要は、テレビのハードディスクレコーダーなどの番組ポーズ機能と同様に、放送の途中でポーズをかけるとそこから内部的に録音が開始される機能(実際には15分まで遡って録音しておくことができる)。放送を丸ごと録音して再生する機能とは異なり、あくまでも短時間のタイムシフトリスニングを可能とするものだ。


FMラジオのLive Pauseを紹介するアップル社の動画より

iTunes Taggingは、かつてソニーが専用携帯端末まで作って普及させようとしたeMarkerのアップル版ともいえるもの。FMラジオの視聴中に気になる楽曲が流れたら、クリックホイールを使ってタグしておくと、iTunesへの接続時にその曲の情報を一覧でき、iTunes Storeにあればそのまま購入できるという仕組みである。こちらは、今のところ米国内の対応FM局だけに有効な機能だが、早く日本でも利用できるようになることを望みたい。


iPod touchのコストダウンでさらなる業績アップを目標に

ここまでiPod nanoを充実させておきながら、なぜiPod touchにはカメラ機能を付けなかったのだろうか? その答えは、やはりコストにある。

前述のように、本格的なカメラ機能を内蔵するには、それなりのコストがかかる。たぶん、次世代touchでは実現されるものと思うが、今回はニンテンドーDSi(希望小売価格18,900円税込)やPSP go(同26,800円)の追撃をかわすためにも、下位モデルで200ドル(日本では19,800円)のラインを切ることが至上命令だったものと推測される。そのため、コストダウンを優先し、さらにiPhoneとの差別化のためにも、あえてカメラ機能を搭載しなかったのだ。


新しいiPod touchはホビー性が強調される

いずれにしても、今回のラインアップには、不況下でも四半期ごとの売り上げを維持し続けようとする同社の強固な意志が見て取れる。もし、この布陣でも年末に向けた受注状況が芳しくない場合には、年内にウワサのアップル版ネットブック(タブレット?)も前倒しで登場してくるかもしれない。しかし、実際にはその必要がないほど、多機能化されたnanoと買いやすくなったtouchは、アップル社の思惑通りの売れ行きを示すのではないだろうか。

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/)アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。




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