「日本の将来に不安を覚えるiPhoneのフリック入力」 by. 小川 浩



「日本の将来に不安を覚えるiPhoneのフリック入力」
2009年10月5日

TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)


日本のケータイをはるかに超えるiPhoneの日本語入力機能

iPhoneユーザーには当たり前なことだが、ユーザーでない人が例外なく目を見張り驚嘆するiPhone最大の革新的な特長、それは「フリック操作による文字入力」だ。いまだに「iPhoneは使いづらいのでは?」と言う人には、このフリックによってメールがどんなに速く書けるかを見せて安心させてあげよう。

iPhoneは設定の切り替えのみで、日本語入力にローマ字入力用のキーボードと日本的なテンキー(あかさたなはまやらわ、の10音のキーボード)の2通りを選べるが、このテンキーに実は驚くべき工夫が施されている。


iPhoneのテンキー画面

日本のケータイであれば、たとえば「起業家」という文字を打つには、「か」のキーを2回打つことで「き」を表示し、それをもう一度繰り返して濁音キーで「ぎ」を表示する。そして「や」のキーを3回押して「ょ」を表示する。それらを続けることで起業家という漢字変換までたどり着く。

見えないキーを弾くようなフリック操作

ところがiPhoneの場合は、「か」のキーを長押しすることで、周囲にそのキーの裏側に隠れているかなを十字の花びらのように表示させ、長押ししている指を滑らせた方向にあるかなを選択するという仕組みを採用している。これを「フリック入力」という。


iPhoneのフリック入力画面

長押し、と言ったが、実は長押しする必要はなく、「か」のキーを最初から軽く左にフリックするだけで「き」を表示できる。日本のケータイなら2回キーを押すところを、1回の操作でできる。か行の最後のかなである「こ」であれば、日本のケータイなら5回キーを押さなければならないが、iPhoneは下側にフリック1回ですむのだ(母音のキーの周囲に、左に「い音」、上に「う音」、右に「え音」、下に「お音」がある)。

多少の慣れは必要であるが、一回覚えてしまえば、これほど早い入力方法はない。

日本人が考案したフリック入力を米国企業が採用する不思議

従来の日本のケータイにおいてみられる、テンキーを指の爪で複数回押し続けることで必要なかなにたどり着き、そして漢字変換するという技は、与えられた制限付きの環境下でも工夫を磨き続けるという日本人の類いまれな特質の賜物だ。実際、女子高生の驚異的な親指入力の早さは舌を巻くほどである。しかし、iPhoneはソフトウェアキーボードを採用したことで、大人の我々にも僅かな練習で身に付けることができる、万人向けの入力方法を提示してくれた。

実はこのフリック入力は元ソニーの日本人技術者が考案したという。つまり、この革命を作ったのは日本人だ。しかし、その発想を生むきっかけと資金、場所を与えたのはアップルという米国の企業だ。この事実に、日本のメーカーの将来に不安を抱くのは筆者だけではないだろう。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。



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