第4話 産官学連携で行われたi-MiEVプロジェクト | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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メイン写真  Webプロデューサー列伝 第22回 
メディアの枠にとらわれない
新しいコミュニケーションを切り拓く
スパイスボックス


スパイスボックス クリエイティブディレクター 神谷憲司(カミヤ ケンジ)


博報堂グループのインタラクティブ・エージェンシーとして、2003年に設立されたスパイスボックス。ネット上でのコミュニケーションプランニングのブレーンとして、これまでに多くの実績を積み重ねており、カンヌ国際広告祭銅賞、東京インタラクティブ・アド・アワードゴールドなど、国内外の広告賞受賞歴も多く、つねに注目を集める存在だ。同社でクリエイティブディレクターをつとめる神谷憲司氏に、スパイスボックスに入社するまでの軌跡から手がけてきたプロジェクトなどについて、じっくりとお話を伺った。



第4話 産官学連携で行われたi-MiEVプロジェクト



震災をきっかけに企画された「i-MiEVねぶたPROJECT」


――神谷さんの最近のお仕事について教えて下さい。

i-MiEVねぶたPROJECT神谷●2011年10月に、電気自動車(EV)「i-MiEV」を電源にしてねぶたに明かりをともす国内初のイベント「i-MiEVねぶたPROJECT」を、長崎県の五島市で行いました。このプロジェクトは「i-MiEV」のブランド認知を広げたいという目的があって、スタートしたものです。それに加えて、クライアントである三菱自動車さんがYoutubeのチャンネルを取得したという事情もあって、合わせて活用できないかということもありました。そこで今の時代における「i-MiEV」のブランドというのは何なのかということを再定義して企業CMを作ることを考えました。

今回の東日本大震災では、ガソリン不足が問題になったことがありましたよね。三菱自動車では「i-MiEV」90台を災害支援車両として被災地に供給したところ、とても役に立ったそうです。震災以降、ガソリン車と電気自動車の違いがあぶり出されてきたと思います。「i-MiEV」のような電気自動車は電気を貯めておけるというのがメリット。そう考えると、電気自動車は車という単なる移動手段ではなくて、そもそもでっかい電池であるという特徴をフィーチャーしてもいいのでは、と思いました。

i-MiEVねぶたPROJECTこのプロジェクトは8月上旬に相談があって8月末に企画が決定して、10月16日にイベントが行われました。ものすごく短い制作期間ではありましたけれど、今でないといけないプロジェクトだとも思ったんですね。非常時のライフラインについてみんなが考えているこの時期、さらに日本全国的にスマートグリッドの構想が広がっていく中でこそ、やる意味があるプロジェクトだと思っていました。


――プロジェクトが行われた長崎県の五島市は、電気自動車の本格普及に向けたモデル都市として有名な自治体ですよね。

神谷●その通りです。五島列島は、九州の西方100kmに浮かぶ大小140余りの島々からなるところで、今回のプロジェクトは福江島という島で行われたのですが、その島では電力の6割ほどを地元の風力発電でまかなっていると聞きました。太陽光や風力などの自然エネルギーは不安定なのがネックです。そういうところで電力を貯めておけるという機能は、非常に重要な意味を持つわけなんですね。「i-MiEV」の電源供給装置を数台導入するだけで、コミュニティ単位で電力を確保できるわけですから。


――なるほど、電気自動車という枠を越えて、電力についての新しい視点をアピールするプロジェクトだったわけですね。

i-MiEVねぶたPROJECT神谷●そうですね。そうとも言えますが、この仕事はi-MiEV、三菱自動車さんのブランディング施策であるので、電力の話に寄りすぎないようバランスを取るよう注意しました。そこで、電気自動車の時代になった時に「車がみんなに提供できる価値と喜び」が何なのかを考え直してみました。その時に考えたのが、「車はコミュニティの中でシェアされることで、車は移動手段からもっと身近な家族のような存在になるのではないか」という近未来像、仮説をたてました。だったら、家族といえるような人格を持たせようということで、“ドーリス”というキャラクターを登場させて、i-MiEVとドーリスを中心にねぶた祭の全体を構成していきました。

ドーリスには体験者の動きを感知して目で追いかけたり、声に反応してリアクションするなどのインタラクティブな仕掛けも盛り込まれていたのですが、そのプログラミングを担当してくださったのが、椿さんの紹介で出会ったIAMAS出身の古館健さん。実は、古館さんは最近のダムタイプの舞台でプログラムを担当していらっしゃるそうで、個人的にも感慨深いものがありました。やっぱり好きで追い求めていれば念願がかなうというか、必ずどこかでつながっていくんだなと実感しましたね。


心に残る映像コンテンツ


――映像で「i-MiEVねぶたPROJECT」の様子を拝見しましたが、子どもたちが素直に楽しんでいる姿が印象的でした。

神谷●当日は昼間に子どもたち向けのねぶた作りのワークショップをやったり、電気自動車の仕組みを学ぶことができる講座を開き、イベントを盛り上げていきました。また、今回は映像を撮るというのも大事なポイントですから、誰に撮ってもらうのかということも考えました。最終的に、九州新幹線の全線開業記念のCMを撮影した古賀康隆さんに撮ってもらって、子どもたちの素直な表情などをおさえることができたと思っています。本当にたくさんのスタッフの方に支えられたプロジェクトでした。




――神谷さんのお仕事の変遷をこうやって伺っていると、スパイスボックスに入社してからというもの、どんどんネットの外にも飛び出して守備範囲の広い企画を手がけていらっしゃるように感じます。

神谷●特に、この「i-MiEVねぶたPROJECT」は製作過程からPRを積極的に活用して話題化させるようにしてきましたし、五島市、京都造形芸術大学、三菱自動車という産官学の大プロジェクトでもあったので、自分としても大きなチャレンジだったと思います。

企画している時には「その体験はユーザーにとってリアルかどうか?」ということを常に考えています。ユーザーにとってのリアリティはネットの中だけにあるわけではないので、ネット以外の体験もうまい形で組み合わせて体験の価値を高めていきたいですね。

そう考えていたら自然と守備範囲が広がっていったという感じですけど、これからももっとメディアにとらわれずにユーザーのリアリティを追求して、ユーザーを動かす広告を作っていきたいと思っています。

(インタビュー/草野恵子 撮影/飯田昌之)



メイン写真 [プロフィール]
神谷憲司(カミヤ ケンジ)

CM制作会社葵プロモーションを経て、2006年にスパイスボックスに参加。KDDI「IS parade」や「million play hanabi」など、ソーシャルメディアを活用したキャンペーンを担当し注目を集める。最新作は三菱自動車の「i-MiEVねぶたPROJECT」。文化庁メディア芸術祭グランプリ、カンヌ国際広告祭銅賞、東京インタラクティブ・アド・アワードゴールドなど、国内外の広告賞受賞歴も多数。

URL http://www.spicebox.co.jp/
求人情報 http://www.spicebox.co.jp/about/recruitment/


[記事リンク]
>>> 第1話 人の心を動かすインタラクティブ広告
>>> 第2話 日本初のインタラクティブ・エージェンシー、スパイスボックス
>>> 第3話 Twitterを使ったプランニングで新境地を開く
>>> 第4話 産官学連携で行われたi-MiEVプロジェクト


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