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 新しいトピックから普遍的な技術まで 
多様化する時代に押さえるべき印刷の知識



 INTRODUCTION 
ネットや電子書籍の時代でも
印刷は生き残る!進化する!
カイシトモヤ[room-composite] url. www.room-composite.com/

 デザイナーでなくとも、多くの人にとって身近な「印刷」。だが、ひと口に印刷といってもいろいろな手法がある。

 商業大量印刷において印刷といえば、「オフセット印刷」のことを指しているといっても差し支えない。それくらい、オフセット印刷のシェアは業界で圧倒的だ。CTP(Computer To Plate)技術の導入により、データから直接、短時間で印刷用の版を出力することができ、入稿から納品までのスピードも一昔前に比べ、ずいぶんと速くなった。オフセット印刷は現在、コスト、印刷精度、スピードといったバランスで、もっとも多くのニーズに合った印刷手法といえるだろう。

 情報の速報性と検索性では印刷はネットにかなわない

 半面、印刷物を単なる情報伝達のための媒体として考えたとき、印刷よりもコストやスピードの面ではるかに有利なネットや電子書籍が注目されているのも当然の流れだ。

 たとえば、あなたが何か新しい電化製品を買おうと思っているとする。ネットが普及する以前は、家電量販店に行って製品を見たり、カタログをもらったりするところから始まっていたかもしれない。しかし今では、多くの人がまずネットで欲しい商品を検索し、サイトで商品情報を得たりするのではないだろうか。

 情報の速報性や検索性能の良さという点においては、印刷物はネットに勝つことはできない。では、これからの社会では、印刷は無用の長物になっていくのだろうか。

 そんな疑問を解決するキーワードのひとつが「印刷の多様化」だ。ネットや電子書籍が、基本的には画面上にRGBの光で表示されるという画一的な表現であるのに対し、印刷は、実際に「ものをつくる」表現手段。より多様な方向に進化が可能なのである。



icon バランスのとれたオフセット印刷

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オフセット印刷は、コスト、印刷精度、スピード、対応サイズなど、さまざまな面で高いバランスのとれた手法だ。紙の印刷物においてはその多くがオフセット印刷によって制作されている



 はっきりとした個性と目的を持ち多様化していく印刷表現 


 いくつか例を挙げていこう。まず、印刷加工技術の進歩により、今まで出合ったことのないような物質感をもった印刷物が生まれるという進化。「コールドフォイル」という技術は箔の上にオフセット印刷を行い、箔をさまざまな色に変化させることができる。2種類のニスの化学反応を利用した「疑似エンボス」という技術は、用紙に新たな手触り感を付加することが可能だ。「デジタル印刷(オンデマンド印刷)」のように消費者の好みの細分化に合わせた印刷物の生産もできるようになった。さらには「UVインクジェットプリンタ」の導入で、オリジナルの携帯ケースなど、少数多品目のグッズ制作がより気軽に行えるようにもなっている。

 新技術に加えてオフセット印刷自体とその周辺の高品質化も見逃せない。Kaleidoインキなど広い色域を表現する技術。CTPの精度は網点1%単位での階調の差を明確に表現する。デジタル校正(DDCP)によるカラーマネジメントは、より正確な色を再現できるようになった。

 また、古くからあった印刷技術の見直しや再評価も「多様化」の一部ととらえることができるだろう。凸版印刷は歴史的には古い印刷技術だが、その独特の風合いに魅了される人が後を絶たない。最近の傾向としては、デザイナー以外の高感度な人々にも凸版印刷のファンが増えている。


icon 印刷技術の多様化で印刷の概念が広がる

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印刷の進化、多様化は一方向ではなく、さまざまなニーズにリンクした形で多方向に広がっている。それにより、印刷の概念も従来のものから急速に広がりつつある


 デジタル孔版印刷は、にじみや版ズレなど精度が低いところが短所なのだが、それが逆に個性となって人気があるというところが、今の時代性を反映していておもしろい。

 これらの多様化した印刷表現に見られる特徴は、それぞれがはっきりと個性や目的を持っているということだろう。紙であることのメリットであることはそのままに、スピードや少数多品目化というニーズにうまく対応したのがデジタル印刷。逆に値段が高くても、良質なものを持っていたいという人の欲望を喚起する、箔押しなどを駆使した高付加価値印刷。

 そういった視点で考えると、即時性(情報をすぐに伝える)と恒久性(情報を長いスパンで伝える)という対立項をもつ軸の上に、多様化した印刷物、そして電子書籍やWebサイトなどを配置していけるかもしれない。キャンペーン期間が終わったWebサイトは跡形もなくなってしまう。情報を詰め込むことを優先したチラシは用が済むとその多くが捨てられる。一方で、ていねいにつくられた特装の本は、愛読家の本棚の中で生き続ける。



 印刷とデジタルメディアが融合して機能し合う未来 


 今度は、「多様化」というキーワードを印刷の仕組みから考えてみよう。デジタル印刷などは「版」を持たずデジタルデータから直接印刷物を生成するし、UVインクジェットでのグッズ制作は版を持たないどころか、多くの場合「紙」に刷らず、プラスチックや金属に印刷したりもする。

 狭義の「印刷」の定義は「版をつくってインクを紙に転写すること」であった。もはや、その括りで多様化された印刷工程を説明することはできなくなっている。この旧式な定義で印刷をとらえる必要はないし、その概念を大きく広げていってもよいはずだ。

 印刷メディアと電子書籍などのデジタルメディアはある部分では融合して機能し合い、ある部分では、それぞれにしかできない立場で新たなメリットを生み続けるだろう。社会が多様化し続け、さまざまな価値観が交錯していくように、印刷という表現媒体もこれまで以上の大きな進化と多様化が期待されている。そうなったときにデザイナーの果たす新たな役割も見えてくるのではないだろうか。


icon 即時性、恒久性という視点から見る印刷メデイア

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ネットや電子書籍は情報の伝播性、制作から発表までのスピーディーさなどから見ても即時性の強いメディアだ。それに比べ高付加価値のある印刷物は情報に重みがあり、ゆっくりと伝わっていくイメージ。あくまで単純にモデル化したものなので、これに収まり切らないものも当然ある
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本記事は『MdN』2012年8月号(vol.220)からの転載です。
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