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第7回 肖像権侵害を防ぐために

特集記事

デザイナーのための著作権と法律講座


第7回 肖像権侵害を防ぐために


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 永井幸輔(骨董通り法律事務所 for the Arts)



ケース:クライアントからの依頼で、今度開催予定のアーティストの個展の展示風景を撮影し、後日インターネットで公開することになった。作品写真だけでなく、来場者が作品を鑑賞する様子も撮影して掲載したい。肖像権を侵害しないよう適法に写真を使うためには、どうすれば良いだろうか。


展覧会などの記録写真・映像に来場者が写り込む場合や、街の雑踏の写真・映像を使って作品を制作する場合など、人が写り込んだ写真などを撮影/公表する場面は少なくないでしょう。その際には、「肖像権」に注意する必要があります。Book第6講では、著名人の肖像などの経済的利用権ともいえるパブリシティ権を取り上げました。今回は、それと似ていますがより人格権的な、いわゆる「肖像権」についてお話ししたいと思います。



■ 法律には規定のない肖像権


肖像権とは、自分の容貌や姿態を無断で撮影/ 公表されない権利のことをいいます。実は肖像権は、法律に明確に規定された権利ではなく、人格権の一つとして、判例上認められている権利です。そのため、著作権などの法律で規定された権利と比べても、権利の侵害になるかどうかの基準はあいまいで、その判断が難しいことも少なくありません。以下、どのような場合に肖像権の侵害となるのか、詳しく見て行きましょう。


■ 肖像権の侵害となる場合


肖像権侵害となる可能性があるのは、人の容貌や姿態が写り込んだ写真や映像を「撮影」または「公表」するときです。他人の撮影した写真を誌面に掲載する場合など、「公表」のみ行う場合にも問題となります。また、カメラのように機械的に写し取る場合だけでなく、イラストや彫刻などの方法で人為的に写し取る場合も含まれます。

最近では、3Dスキャナーや3Dプリンターを利用して、人物を精巧に再現するフィギュアを作ることもできますが、そのようなフィギュアを無断で作成した場合にも肖像権を侵害する可能性があるでしょう。肖像権を侵害した場合には、損害賠償請求などの対象になります。

ただし、人の容貌などを含む写真や映像を撮影/公表する場合でも、次のような場合には肖像権侵害は成立しません。

①誰の肖像か特定できない場合
 そもそも、写り込んだ容貌などが誰のものか特定できない場合は、肖像権侵害は成立しません。例えば、画像がごく不鮮明だったり被写体の顔が見えない場合には、人物を特定できないことも多いでしょう。

②被写体の同意がある場合
 写り込んだ被写体の同意がある場合には、肖像権侵害は成立しません。同意には、明示的な同意と黙示的な同意があります。明示的な同意には、口頭による場合と、同意書などの書面による場合の両方が考えられます。黙示的な同意には、例えば媒体名を明示してインタビュー映像を撮影する場合など、撮影/公表されることを知りながら特に拒否しなかったときなどに認められる場合があります。

ただ、写真の「撮影」には同意していても、それがインターネットや雑誌などの媒体で広く「公表」されることまでは同意していなかったという場合や、「雑誌」での公表には同意していても、「テレビ」や「インターネット」での公表には同意していなかったという場合もあるでしょう。撮影だけでなく、公表とその方法・範囲についても明確に同意を得ておく方がベターです。

③受忍限度を超えない場合
 ①や②のような利用ができるのが望ましいですが、特定可能な人物が写り込み、その同意を取得できない場合もあるでしょう。

この場合でも、それが被写体の受忍すべき限度の範囲内である場合には、写真の撮影は肖像権侵害にはなりません。最高裁判所の判例によれば、「被写体の社会的地位」「撮影された活動内容」「撮影の目的」「場所」「態様」「撮影の必要性」などから総合的に判断して、被写体の利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超える場合に、肖像権侵害になります。

ずいぶん抽象的な基準ですが、例えば、「被写体が公的な人物、有名人である場合」「他人に知られたくない状況・姿ではない場合」「公開の場所で撮影した場合」「取材者であることが分かるような表示をして撮影した場合」などには、それぞれ受忍限度内となる可能性が高まるでしょう。

裁判例では、次のような場合に肖像権侵害が認められています。

・公道を歩いていた一般人女性(胸に⌈SEX⌋と書かれたTシャツを着用)の全身を撮影し、Web サイトに大写しで掲載した場合
・雑誌に掲載されたアナウンサーの学生時代の水着写真を(やや扇情的な記事と共に)再掲載した場合
・ゴミ収集車の運転手をしていることを知人にも隠していた人物を撮影·インタビューし、同意なしに全国テレビ放送した場合


なお、写真などの「撮影」が違法になる場合は、その写真などを「公表」することも違法になるのでご注意ください。


■ 肖像権侵害を防ぐ方法


肖像権侵害を防ぐには、次のような方法が考えられます。

①同意の取得
 上記のとおり、被写体の同意がある場合には肖像権侵害は成立しません。そこで、被写体から簡単な同意書やメールなどで同意を得る方法があります。hat撮影だけではなく、公表とその範囲についてもできる限り明確に同意を得ることが重要です。なお、被写体が未成年者である場合には、原則として保護者などの法定代理人の同意(署名)を得ることが望ましいのでご注意ください。

②デザインの加工
 次に、人物を特定できない場合は肖像権侵害にならないため、モザイクや黒塗りで被写体の顔付近を隠すなどの加工をすることも考えられます。事前にも事後にも同意を得られない場合には有効でしょう。

③その他の工夫
 同意の取得やデザインの加工が難しい場合には、受忍限度内の撮影/公表になるよう工夫することが考えられます。例えば、被写体がごく小さく写った写真や、一瞬のみ写された映像であれば、受忍限度内なる可能性が高そうです。また、例えば、取材だと分かるような目立つ腕章を付けて撮影すれば、被写体も撮影/公表を予想できたと言いやすく、受忍限度内や、黙示の同意ありとされる場合もあるように思われます。その他、上記の最高裁判所の基準を参考に工夫できるでしょう。

肖像権は侵害になるかどうかあいまいな部分も多く判断が難しいこともありますが、撮影/公表の事前事後に手当てすることで、写真などをより安全に利用することも可能です。是非、参考にしてください。



  アートと権利、今月の話題 

  裁判(2013年11月分)

 「米連邦地裁、Google Booksにフェアユースの適用を認める」

著作権者の許諾なしに多数の書籍をデジタル化し、全文検索と一部プレビューをできるようにするサービス「Google Books」の差し止めを求めて、米国の著作者団体らがGoogleを訴えていた訴訟で、米連邦地方裁判所は、11月14日、訴えを棄却した。同判決は、Google Booksは「フェアユース」に該当するとして、同プロジェクトを強く支持。絶版書籍に新しい命を与え、遠隔地の人々の書籍へのアクセスを可能とする同サービスは、社会全体に恩恵をもたらすという。原告側は控訴する方針で、インターネット時代の著作権ルールを巡る戦いは予断を許さない。


  動向

 「Wikileaks、TPPの知的財産分野の草案をリーク」

TPP交渉の中でも最も対立が激しいと報じられる知的財産分野に関し、11月13日、Wikileaksが、この分野の草案(8月末時点)とされる文書を公開。これによると、著作権に関し、日本は①著作権の保護期間の延長(著作者の死後70年へ)や、②著作権侵害につき、権利者の告訴なく刑事裁判を行うことを可能とする「非親告罪化」について、いずれも反対の立場とされている(8月末時点)。また、保護期間延長については交渉国が6対6に分かれて対立する一方、同人誌などに大きく影響するとされる非親告罪化については、日本とベトナムを除く10か国が賛成しており、導入可能性が高いと見込まれる。

●参考文献:梅田康宏・中川達也『よくわかるテレビ番組制作の法律相談』(角川学芸出版、2008)
●参考文献:大家重夫『肖像権〔改訂新版〕』(太田出版、2011)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年2月号)の記事を再掲載したものです。



●骨董通り法律事務所の最新の活動(セミナー・講演、メディア出演、執筆活動など)はこちらをご確認ください。


さて、次回の第8講は「音にまつわる権利」です。皆さんが普段耳にする音楽にも、著作権があるのはご存知かと思いますが、ホームページのBGM や動画などにお気に入りの音楽を使いたいときには、どのような権利に注意すればいいのでしょうか。次回は、そんなときに問題になる「音にまつわる権利」について解説していきます。


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2014/5/14





【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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