「iPadの発表で欠けていたもの(2)」
「iPadの発表で欠けていたもの」 (2/2ページ)
2010年1月28日
TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
前日本時間の1月28日未明、噂されていたアップル社のタブレットマシン「iPad」が発表された。しかし、この発表には、筆者が予想していたものの仕様やアナウンスには盛り込まれなかったいくつかの項目があった。
今回は、そうしたミッシングポイントと、それらが割愛された理由を考えてみたい。
iPad
欠けていたもの、その5:「教科書関連の発表」
また、サービスやコンテンツ関連で欠けていたと感じられるのは、教科書関連の発表だった。
電子書籍市場で先行するAmazonの「Kindle」も、学習に不可欠なリファレンス性やインタラクション、ノートテイキング機能などの欠如や不足によって、教育関係者からの反応は今ひとつ。
すでにアメリカの大手教科書出版社のひとつであるマグロウヒルのCEO、テリー・マグロウが、スペシャルイベント前日にCNBCのインタビュー内でアップル社とのコラボレーションに言及したように、教科書市場はiPadとiBookstoreが攻略すべき大きな市場であり、これに言及しなかったのは非常に不思議な話だ。プレゼンテーション中に登場した大手出版社の社名の中にも、マグロウヒルの名前はなかった。
うがった見方をすれば、これはたとえば教育関係のイベントやトレードショーなどで発表するための隠し球にしているのかもしれない。しかし、その一方では、まさにマグロウの不用意な発言がジョブズの逆鱗に触れ、直前になってその部分のデモが割愛された可能性も否定できない。
だとしても、アップル社にとって最終的にマグロウヒルの協力は教科書市場を押さえていくうえで不可欠なため、交渉自体をご破算にすることはないはずだ。ジョブズは、単にどちらが主導権を握っているのかを示したに過ぎないのである。
意外にも用意されていたもの:「キーボード」
反対に、意外にも用意されていたものとしては、外付けのキーボードドックを挙げたい。
わざわざ「iPad Keyboard Dock」と銘打ったことから、このアクセサリはiPhoneやiPod touchをサポートしないと考えられるが、やはりこれはアップル社が、iPadを教育市場に大量投入することを真剣に考えたことの証だろう。そうでなければ、ジョブズはiPadに対するテキスト入力方法を、よりシンプルかつスマートなソフトキーボードのみに留めたはずである。
学生たちは、普段、iPadだけを持ち歩き、自室や大学の教室などではiPad Keyboard Dockに接続して、ノートをとったり、リサーチしたり、論文を書いたりするようなイメージが目に浮かぶ。そのような環境を実現し、教育機関への導入を促す意味でも、キーボード対応は不可欠と判断したようだ。
外付けアクセサリとなる「iPad Keyboard Dock」
ライバルたちにとっての新たなリファレンス
ちなみに、「2台を合体させて見開きタイプの電子書籍リーダーとして利用できるのでは?」という筆者の妄想も霧散したが(前記事参照)、このアイデアは、たとえば博物館などの展示施設で複数台のiPadを専用アプリで連携させて情報を表示するような形で実現されるのではないかとも思う。
一方で、もしも新聞社や雑誌社がアップル社のチャンネルを使ってiPad向けにアプリや電子書籍の形で情報配信を開始したとすると、アップルにとってネガティブな報道(例:過去のストックオプション付与日の不正操作問題など)があった場合に、同社がどのような対応を採るのかという懸念はある。
実際のところ、アップル社は今でもアプリの審査基準のひとつには、どのような意図であれ、同社に関係する製品や人物、サービスなどに言及していないことが含まれている。
いずれにしても、アップル社の常として、実際の発売までの間にも段階的な情報開示や新事実のリリースが行われ、その度にマスコミやネットコミュニティはiPadの話題で持ちきりとなるだろう。
そして、デバイス本体のみならずサービスまで含めた圧倒的なユーザー体験が、アマゾンのKindleはもちろん、他社のタブレットマシンにとっても、ここ数年に渡って追いかけざるをえないリファレンスとなることは間違いない。
<<1ページ目を読む
■著者の最近の記事
「われわれはアップルタブレットの正夢を見るか?」
「さらに進化したアップル主力モデル」
「秋の新製品に見るアップル社の思惑」
「iPhone OS 3.0のテザリングはアップル流ネットブックへの布石か?」
「新型MacBook ProとiPhone 3G Sが示す不況下のモデルチェンジ手法」
「アップルがネットブック市場に参入? 出そろったナレッジナビゲータの基礎技術」
「Bluetooth開放が告げるアップルのiPhone 3.0での戦略転換」
[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。