Apple TVから見えてくるアップル製品の“次の一手”(後編)
Apple TVから見えてくるアップル製品の“次の一手”(後編)
2010年11月22日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
※本記事は「Apple TVから見えてくるアップル製品の“次の一手”(前編)」の続きになります。前編をお読みでない方は前編からお読みください。
米Google社が現在明確に“狙っている”と明言している市場は、
・PC
・携帯電話
・テレビ
・自動車
の4つである。
その理由は、デバイスとして、それぞれの出荷台数が莫大であり、Webサービスによる広告ビジネスに100%フォーカスする同社としては、自身のWebサービスとの接触ポイントを増やすことに全力をあげることは自然な選択だ。これを見ると、現時点で同社のビジネスは米Apple社のそれとでは自動車以外の市場では完全にかぶっている。
PCではMacそのものの市場シェアがそれほど高くないうえに、Webブラウザベース、すなわちオープンなWebの利用が浸透しているので、Macのシェアが伸びたところで、これまでは米Google社にはなんの問題もなかった。しかし、現在ではiPadによって大きく拓かれることになったタブレット型デバイスの需要が伸び、しかもそれがWebブラウザベースよりも、iTunes StoreやApp Store経由のコンテンツ配信やアプリケーション販売による(Webではない)インターネット利用を促進していることによって、「Apple対Google」の大きな対立が生まれている。これこそが、同社がAndroidをリリースして、オープンソースとして配布している理由だ。
つまり、米Apple社のiOSと米Google社のAndroidは、タブレット型のPC、携帯電話(スマートフォン)の領域で激突しているが、その争いが今やテレビにまで波及している。
もう少し噛み砕いて言えば、米Google社は広告をビジネスにしているので、人間の目に触れるスクリーンやディスプレイをもつ、あるいは近い将来もつであろう、ありとあらゆるデバイスのWeb化を果たさなければならない。インターネット化ではない、「Web化」である。
米Apple社が自動車をターゲットにしてくるかどうかはいまのところわからないが(僕自身はあり得ると思っているが)、結果として彼らはさまざまなデバイスのインターネット化を促進したものの、逆にWeb化を遅らせている。米Google社にとってはそれは由々しき問題である。
Apple TVはYouTubeやFlickrなどのWeb企業のコンテンツを閲覧することができるが、Webブラウザをもっていない。反対に米Google社がリリースしているGoogle TVはWebブラウザをもち、Webを使うことを前提にしている。ここが両社の大きな認識の違いなのだ。
米Apple社は今後Apple TVを通して、動画コンテンツのレンタルおよび販売だけでなくゲームの販売も行うだろう。iPhoneやiPod touchをコントローラとして、テレビの大画面でのプレイを楽しめるようになると、これはソニー(株)や任天堂(株)の大きな脅威となる。
さらに、ニュースの生放送などのライブストリーミングを行うことで、従来のテレビ放送をインターネット放送に切り替えていく。そうなればテレビにおける動画CMのビジネスモデルを手中に収めることになる。米Apple社はそこに至るまで、WebブラウザをApple TVに搭載さえしないかもしれない。少なくとも米Google社にとってそれもまた由々しき問題だ。
結果として、米Apple社は世界中のさまざまなハイテク企業に大きな影響を与えるようになるだろう。同じ目標と戦略をもっているのはほかならぬ米Google社であるが、上述のように「インターネット化」すればよいという米Apple社に対して「Web化」しなければならない米Google社という立場の違いが現在は存在している。
米Apple社は近いうちにiTunesをクラウド化する
Macを軸とするのではなくクラウド型のiTunes Store、App Storeを中心として、すべてのデバイスを結び、何でアクセスしても同じコンテンツを楽しめる、真のデジタルライフを実現しようとしている。その方向性は大きくは米Google社も同じだ。しかし、繰り返しになるが、ネット化とWeb化という、一見同じような狙いの中に横たわる微細な違いが、さまざまな業界を巻き込む大きな”戦争”を生もうとしているのだ。
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。