STEAM対応とプライバシー強化にアップルらしさが出たWWDC 2016 キーノート (前編)
STEAM対応とプライバシー強化にアップルらしさが出たWWDC 2016 キーノート (前編)
2016年6月16日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)
WWDC 2016のキーノートでは、結局のところ新しいハードウェアの発表はなかったものの、2時間を超える長丁場に4つのOSのアップデート情報を詰め込んだ、盛りだくさんな情報提供の場となった。ここでは、そのフォロー記事を前編・後編の2回に分けてお届けしたい。(後編は明日6/17に公開します)
プレゼンターの中でこれまでになくユニークだったのは、Apple Musicのデモを担当したボズマ・セントジョン(キーノートビデオの71分あたりから登場)だろう。IT系企業のデモ担当者というよりDJに近いノリで会場を盛り上げた彼女は、アップルという企業のダイバーシティを示す好例でもある。
個人的に、幻の新ハードの発表と同等のインパクトがあったと思えるのは、サプライズ的に最後に発表されたiPad向けのプログラミング学習アプリ、Swift Playgroundsだ。逆に言うと、それがなければ、何らかのハードウェア製品を発表する余裕もあったかもしれない。しかし、アップルは、このタイミングで世界に向けて発表するものとして、Swift Playgroundsが非常に重要と考えた。だからこそ、7分弱の時間を割いて、これを"One more thing"的に説明したわけだ。
このSwift Playgroundsは、画面デザインや課題の与え方などを見てもわかるように、明らかに小学生レベルからのユーザーを対象としている。これは、ここ数年、欧米で注目され、日本でも導入が進み始めているSTEAM教育(科学、技術、工学、芸術、数学を統合した学際的教育の考え方)を念頭に置いた動きといえる。
今まで、このレベルのプログラミング系教育では、簡易言語やブロックベースのビジュアル言語が用いられることが多かった。Swift Playgroundsも若年層(あるいは入門者)向けなので、GUIを推進してきたアップルであれば、新たなビジュアル言語や、Swiftに対するブロックベースのフロントエンド環境的なものを用意しそうなところだ。
このSwift Playgroundsは、画面デザインや課題の与え方などを見てもわかるように、明らかに小学生レベルからのユーザーを対象としている。これは、ここ数年、欧米で注目され、日本でも導入が進み始めているSTEAM教育(科学、技術、工学、芸術、数学を統合した学際的教育の考え方)を念頭に置いた動きといえる。
今まで、このレベルのプログラミング系教育では、簡易言語やブロックベースのビジュアル言語が用いられることが多かった。Swift Playgroundsも若年層(あるいは入門者)向けなので、GUIを推進してきたアップルであれば、新たなビジュアル言語や、Swiftに対するブロックベースのフロントエンド環境的なものを用意しそうなところだ。
ところが、実際には、いきなりSwiftのテキストコードそのものを使ってレッスンが進んでいく。つまり、この環境を用いてプログラミングを学べば、そのまま本格的なアプリ開発につながるわけで、ここに、Swiftの習得のしやすさへの自信と、その普及に対するアップルの本気度を見ることができるのである。
一方で、今回の発表では、メッセージやマップアプリ、Siri機能のサードパーティへのオープン化が行われ、アップルが自社技術の開放に向かいつつあるという報道が目につく。しかし、筆者は、これはオープン化というよりも、新たな囲い込みであると感じている。
なぜなら、通常のオープン化であれば、開発者は、それらの技術を自分のアプリ内から呼び出して利用できるのが普通だが、今回の取り組みは、あくまでもiMessageやマップアプリのエクステンション的にサードパーティが開発した機能を販売・追加できたり、Siriを介してサードパーティアプリの機能を呼び出せるというものだ。
つまり、アップルの純正アプリに対するアドオンとして自社の製品やサービス提供を行う形式で、それらの環境に紐付けされることになる。この点には、少し注意が必要だろう。
後編では、グーグルへの牽制の意図が見え隠れするプライバシー関連の発表内容に触れていく予定だ。
(後編は明日6/17に公開します)
一方で、今回の発表では、メッセージやマップアプリ、Siri機能のサードパーティへのオープン化が行われ、アップルが自社技術の開放に向かいつつあるという報道が目につく。しかし、筆者は、これはオープン化というよりも、新たな囲い込みであると感じている。
なぜなら、通常のオープン化であれば、開発者は、それらの技術を自分のアプリ内から呼び出して利用できるのが普通だが、今回の取り組みは、あくまでもiMessageやマップアプリのエクステンション的にサードパーティが開発した機能を販売・追加できたり、Siriを介してサードパーティアプリの機能を呼び出せるというものだ。
つまり、アップルの純正アプリに対するアドオンとして自社の製品やサービス提供を行う形式で、それらの環境に紐付けされることになる。この点には、少し注意が必要だろう。
後編では、グーグルへの牽制の意図が見え隠れするプライバシー関連の発表内容に触れていく予定だ。
(後編は明日6/17に公開します)
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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。