「Apple版ネットブックは登場するか」
「Apple版ネットブックは登場するか」
2009年5月11日
TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
ネットブックはもはやPCと呼んでもいい?
Appleが新しいタブレット型のモバイルデバイスを準備しているという声がまことしやかに聞こえだしている。
きっかけになっているのは、ネットブックと呼ばれる廉価で小さな液晶画面を備え、ネット接続とメール端末としての機能に絞り込んだノート型のコンピュータが市場を席巻していることだ。
Appleはこのネットブックを「PCと呼べるくらいには進化している」(ティム・クックCOO)、つまりPCではない、と称しており、表面的にはこの分野への参入を否定してきた。
その理由としてはネットブックが主にWindows XP、つまり旧世代のOSを搭載する非力なマシンであり、自社のブランドイメージを損ないかねないからだ。彼らとしては廉価版のマシンにMac OS Xを搭載することはできない。高級スポーツカーメーカーがカッコいい軽自動車を出せば売れるかもしれないが、その代償として高級スポーツカーというブランドを崩しかねず、結果としてビジネス全体を台無しにしてしまう恐れがあるのと同じだ。Appleとしては技術的な革新性を持ち込めない限りは、ただMacの廉価版を出す、という決定はできないのである。
Google Andoroidを搭載した携帯デバイス
iPhone OSはネットブック用OSになるか?
しかし、AppleにはiPhone OSという軽量でモバイル専用にチューニングした優れたOSがある。モバイルOSとしてライバルと目されるGoogleのAndroidは既にネットブック用のOSとしての注目を集めている。iPhoneやiPod touchをベースに、やや大きめの(7-8インチ程度の?)タッチパネルで、ソフトウェアキーボードを備えた端末であれば、ネットブックの価格帯である5万円前後で提供し、しかも革新性とブランドイメージを保ったまま、この分野に参入することは可能なように見える。
これが世間のAppleウォッチャーがApple版ネットブックの登場を予想する理由である。
電子ブック市場への牽制も
さらに、Appleとしては、ネットブック以外にも、Amazonの「Kindle」という電子ブックリーダーの存在を意識しているはずである。iPodやiPhoneと比較して大型のタブレット型デバイスであれば、音楽や通話よりはテキストを読んだり書いたりする用途に向く。つまり、「読んだり書いたりするためのiPod」というポジショニングであれば、Kindleキラーになり得る。もっといえば、その大きさであれば、iPhoneやiPod以上に動画を閲覧するためのモバイルデバイスとしても評価を得られるだろう。SkypeなどのIP電話機能やGoogle Docsなどのオンラインオフィススイート(しかもGoogle Gearsによってオフラインでも利用可能だ)との組み合わせもまた非常に有望だ。
Amazon Kindle2
このように、ラップトップの小型化という進化ではなく、iPhone/iPodの巨大化という進化による新しいネットブック、あるいはタブレット型のモバイル端末、という市場参入であれば、Appleとしては、911シリーズを温存しながらもボクスターという軽量かつ比較的安価なオープンカーをリリースして両方を成功させたポルシェのごとく、新たなドル箱を生み出すことができるかもしれない。。
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。