デザイナーへの道を知る 30人の言葉ほか3冊
周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
トップデザイナー、若き日の“悩み”を知る
『デザイナーへの道を知る 30人の言葉』
石田純子/美術出版社2,000円+税
本サイト「これがデザイナーへの道」を読んでいただければわかるが、デザイナーになるきっかけ、現在までの足取りは千差万別。多くは「小さい頃から絵を描くのが好きで……」というような“入口”でも、その道程は一本道の人もいるし、紆余曲折の末にデザイナーに行き着いた人もいる。すべてが教科書通りにいかない、いわばチャンス・ミーティングがある人も多い。現在、デザイナーという職業がクローズアップされやすい状況の中、必ずしもその“道”はティピカルなものでないことを知らなくてならない。
本書は『デザインの現場」連載「先輩に聞け」をまとめた一冊。登場するのは、箭内道彦、佐藤卓、グエナエル・ニコラ、東海林小百合、小泉誠、立川裕大、野口孝仁、須藤玲子、五十嵐久枝、川村哲司、柴田文江……と、第一線で活躍中の人ばかり。各々、ポートレート写真、メッセージ、作品例、インタビューを掲載し、それぞれの“道”とこれからデザイナーを目指す人たちに向けた“金言”にあふれている。皆、若き日の自分に向けた言葉を実筆し、その重みに染み入るばかり。悩みこそ人を育てることを伝えているだろう。
「広告だけに頼らなくても、モノは売れる」という哲学
『WebPRのしかけ方』
太田滋/インプレスジャパン1,800円+税
近年、Web広告がラジオや雑誌媒体の出稿量を超える……なんて、新聞などで大きく喧伝されていたが、不景気になると一番最初に切られるのはWeb。もちろん、ラジオや雑誌などのペーパーメディアの凋落は確かなことだが、Webよりも年月をかけて実績を重ねてきたペーパーメディアは、まだ余力を残しているのも確かだ。書店に行けばわかる。いくら出版不況で「雑誌や本が売れない」と囁かれても、真っ当なビジネスを真摯に行っているところはいくらでもある。翻ってWebの世界において、大手ポータルサイト以外のサイト・モデルは、日に日に衰弱しているのも正直なところだ。
本書は、ユニクロのグローバルキャンペーン「UNIQLOCK」をはじめ、多くの企業・商品、広告キャンペーンを手がける、ビルコム株式会社代表取締役兼CEOである著者による「広告だけに頼らなくても、モノは売れる」法則を著述した一冊。Web時代においてPR会社の役割が変容する現在、いわく“ストーリー型”のマーケティング手法で成功を収めてきた氏のメソッド、テクニック、そして哲学が詰まった構成になっている。システム作りからディレクターの立ち位置まで、ポンッと膝を打つ至れり尽くせりの内容に!
この季節ぴったりの伝統絵模様641点
『京の絵模様素材集 はんなり&ほっこり』
中村重樹/エムディエヌコーポレーション2,300円+税
梅雨、開けました。暑い、汗ベトベト、頭ボーッ……夏が好きだと言っても、ちょっとイラッとすることもある。そんな時、風鈴の音や遠くに聞こえる蝉の鳴き声に「ホーッ」と涼んでしまうのが日本人。暑ければ暑いなりに、涼しく過ごす術を大昔から会得してきたのが日本の夏。……なーんていうと蚊取り線香のコマーシャルみたいだが、たとえば流行りのiPhone「夏の音」なんてアプリを始終流していると、なにやら冷んやりしてきて、アイデア次第ではイラつきも解消できるということがある。
本書は、そんな暑苦しい季節に涼気分を感じさせてくれるような、古都・京都に根付く絵模様パターンを集積した素材集。街角で配られるようなありきたりの販促団扇などではなく、この本で紹介されている絵模様を使った団扇や手ぬぐいを使ったら、涼やかに過ごせそうだ。副題にあるように「はんなり」、「ひめやか」、「つややか」といったカテゴリーで、この夏を乗り切るデザイン・アイテムが満載。夏だけでなく、四季折々の素材で構成されているから、日本の伝統文様に興味がある人はぜひ手にしてみて。
決してブレない巨星のワーク集
『堀内誠一 旅と絵本とデザインと』
コロナ・ブックス/平凡社1,600円+税
雑誌『anan』、『ポパイ』、『ブルータス』など、マガジンハウスの黄金期を築いたアートディレクター、堀内誠一氏。世田谷文学館にて開催中の展覧会(9月6日まで。その後全国巡回を予定)に合わせてまとめられた本書は、氏の足跡と趣味の絵本、そしてオリジンなデザインワークを伝記+ビジュアルで構成した一冊。図案家だった父親のもと、美術とデザインに魅入られた少年時代から、前述したような雑誌群の仕事、そして絵本作家としての決してブレない作品など、氏の仕事集として念入りな編集で見せてくれる。
同時に旅人として世界各地を巡った“記録”が、なんとも情緒豊かでなごませる。不世出のデザイナー、そしてアーティストとして、氏の功績を丹念に追いかけた構成も素晴らしい。縁のあった詩人、編集者などの回顧録も読み応えあり。現在、デザイナーである人々から、デザイナー志望の方々まで、氏の手がけた雑誌を手に取り、捨てられないものとして残しているケースも多い。そんな堀内誠一マニアには堪えられないコンプリート・エディションだろう。
(文・増渕俊之)
更新日:2009年7月15日