デザインを知る世界の名著100ほか3冊
周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
デザイン界の“教科書”を集めた豪華本
『デザインを知る世界の名著100』
ジェイソン・ゴッドフリー/BNN新社5,500円+税
物事が“Webベース”な生活をしていると、なんでもかんでもディスプレイを見つめ、検索しまくっちゃう今日このごろ。音楽、映像、つぶやきまでが溢れていて、それで平気で1日過ごせちゃうから、便利な世の中というか怠惰な生活というか(笑)。まあ、情報に近寄ることが格段に易しくなった。それはグラフィックについても一緒。90年代、書店をかけずり回り、重たく高い洋書を買い漁っていた頃と比べれば、いまや楽も楽のネット環境だ。このご時世、おいそれと高い洋書を買うのは家計的に厳しいときだから、現物お見送り……ということばかり。しかし、本書『デザインを知る世界の名著100』を手にすると、そんな赤貧の精神は翻り、現物を触って「ハアハア」したくなる、罪作りな一冊である。
その名もズバリな邦題で、内容、語らずともわかる。ちなみに、ミルトン・グレイザーの『GRAPHIC DESIGN』から横尾忠則『The Complete Tadanori』まで……カバーに写る代表作の“幅広さ”が本書の視点も伝えているだろう。構成はタイポグラフィ、資料集、教則本、歴史、アンソロジー、モノグラフと分類され、アートスクールの学生が目を通すべき“教科書”といったラインナップ。これ全部、買い揃えたら、おそらく5千万円近くになるのではないだろうか? 予算ばかりか、いくらWebで古書も買いやすくなったとは言え、ミント状態のオリジナル版を探すのは難しい。そこで本書のように名作をダイジェストしてくれるのは嬉しいじゃないか。デザイン界の好企画。
Web制作に必要な最新情報&テクニックが凝縮
『Webデザイン・ルールズ』
檜山佐知子/エムディエヌコーポレーション2,300円+税
表1、フレンドリーな温もりがある装幀デザインに気を許して手に取ると、ビシバシ叩かれながらWebデザインのABCを教え込まれてしまう“鬼教官”的1冊。まず「Webデザイン」とは何ぞや……という問い掛けから、ワークフロー、HTMLやXHTMLなどのデザイン方法、CSSを主体にした文字指定、グラフィックス、色など、基礎中の基礎を叩き込まれる。理知的で論理的な文章&的確な作例により、あなたのWeb制作観を再確認できるだろう。もちろん、これから学びたいと思う初心者が読んでも確実。プロフェッショナルなテクニックを身につけたい職業人も、手元に置いておいて損はない。
多くのデザイナーが課題としなくてはならない「情報をわかりやすく伝える」ための術を教えながら、最後はトラブルシューティングで閉められる本書。副題「Web制作に必要な最新情報&テクニック」が詰まり、制作のよもやま事が凝縮された内容に隙はない。知りたい情報にすぐアクセスできる、編集のスマートさに無駄がないとも言える。また、CGIとAjax、Firefoxのアドオン、アクセビリティとユーザビリティなど、昨今留意しなくてはならないテーマはコラムとして解説収録されているのも便利!
3GS使い座右の銘、iPhone最新マニュアル
『iPhone 3GS PERFECT GUIDE』
石川温・石野純也・小林誠・房野麻子/ソフトバンククリエイティブ1,429円+税
6月発売した3GSにより、それまでの3G環境より格別のスピードと大容量(32GB)を感じられるようになったiPhone。発売直前までまったく興味がなかったが、店頭で実機を操作したときの速度感に惹かれ、そのまま機種変してしまった。おそるべし、アップルの戦略。それに釣られるスマートフォン愛好家……つーかiPhon信者たちの“定番マニュアル”として利用したいのが本書。その名もズバリ、3GSユーザーが知りたい活用術が詰まった一冊である。3Gで慣れたけど、購入した人に操作方法を教える(日本の携帯のような)ブ厚いマニュアルは存在しない。すべてがユーザーライクで、Web情報へのアクセスを簡単にさせたiPhonの使い方は、わからなくなればネットでいつでも知ることができるからだ。
とは言え、書物のカタチで手元に置いておきたいっていうのも人の心。つーか、新作が出ると購入し、記念に一冊……っていう買い方が多いコノ手の本なんだけど、OS3.0以降の更新機能、3GSから搭載されたいくつもの新機能(そのへんのことはコチラをご覧ください)、定番アプリ情報と、改めて再確認しておきたい情報がてんこもり。ユーザーは持ってて便利だと思う。蛇足ながらアプリの充実は嬉しい悲鳴だが、ジャンル区分けに「デザイン」という項目がないのが寂しいところ。初期に簡易な図面作成ソフトや、いまも3Dモデリングを可能にした「Solid Dot」などのソフトは点在するが、さすがに現場のグラフィックを操作することは難しい……。しかし、創作性がインスパイアされる携帯に間違いない。
叙情派としてのデビュー作、新装版
『逆光の頃』
タナカカツキ/太田出版1,300円+税
天久聖一との共著『バカドリル』や『オッス!トン子ちゃん』で知られる漫画家&映像作家=タナカカツキ。その才能はズバ抜け、岡本太郎展でやったコラボレーションはいたく記憶に残っている。太郎の仕事場に佇むトン子ちゃん! あの勇姿は携帯待ち受けにしてしまった。永久保存のつもりです(押忍!)。……と、まあフリーキーなファンを集め、そのポスト・モダンな作風が人気のタナカだが、その昔、デビュー当時の80年代末は「叙情派」としてリリシズム全開な短編を書いていた。週刊モーニングでシリーズ連載された『逆光の頃』。その新装復刻版が今夏刊行されたのだが、初版発売時に買ったにもかかわらず、また同じものを買ってしまった……。でも、決して惜しくないエバーグリーン作。
古都・京都を舞台に、淡々と繰り広げられるストーリー。高校の頃を思い出させるような思春期の少年少女の機微をすくい上げ、静謐な筆致で時間を編む。後に「アンビエント・マンガ」と題した作品展覧会を開いたタナカだが、そうした活動の一端のルーツもここに隠されていよう。どこか幻想的で、永遠につまっている“蒼さ”……それが本書のキモのように思える。このスタイリッシュなシンプルさは、グラフィック・デザインに携わる方々も一見の価値あり。
(文・増渕俊之)
更新日:2009年8月19日