変わる価値ほか3冊
周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
先鋭的デザインファクトリーの「姿勢」とは?
『変わる価値』
北川一成/ワークスコーポレーション1,500円+税
自前の印刷工場(ファクトリー)を併せ持ちながら、エッジのきいたグラフィックデザインやアーティストとのコラボレーションで一目置かれている「GPAPH」。そのヘッドデザイナーを勤める北川一成氏による本書、彼の原点と思考を綴った“自叙伝”である。活動の根底にある「直感によるクリエィティブの可能性」を繙きながら、様々なアクションの裏側を明かしてみせる。また、養老孟司氏をはじめ、深澤直人氏、岡野雅行氏、新津保建秀氏といった識者&クリエイターとの対談も集録。その他、参加者にサイトウ・マコト氏、佐藤卓氏、三宅一生氏など、刺激的な面々が名前を連ねている。さて書名に「変わる価値」とあるが、ある意味ストレートでヒネりなく、しかし真摯に“伝えたいこと”を記すもの。視覚に対する“新時代マナー”について語る一冊として、デザインに携わる人は興味深く読めるはずだ。造本は、軸にあるエモーション通り“読む”ことに重点を置いている。外連見なしのブックデザイン、しかしそこにも著者の“視覚への探求”が見え隠れしていよう。
CMYKを“言語”とする人、必携
『デザイナーズ カラーリングブック 基本色+配色見本帖』
松田行正/毎日コミュニケーションズ3,600円+税
我が事ながら、編集者になって一番最初に手にした「道具」は、写植見本帳と級数指定用スケールだった。まだDTPがなかった時代。レイアウトを作ったり確認するには、アナログな「道具」が必要で、それを使う自分がなんだか誇らしげに感じたものだ。まー、若いね(笑)。で、表紙やカラーページを担当するデスク以上の編集者が、デザイナーが配色してきた色指定を確認するのに、いつも重宝していたのがカラーチャート。DIC(特色)以外の4C分解モノに関しては、上司たちが掛け合わせた4Cの色具合についてチェックしていたものだ。キャリアを重ねることで、ぼくも自前のカラーチャートを使うことができるようになって、ようやく一人前な編集者に……なーんて感慨もあった。さて、ここで紹介するのは、そのカラーチャートブックの最新最強版。有名グラフィック・デザイナーである著者による、現在のデザイナー必須の配色チャートである。10のカラーグループに、標準/淡/濃という3段階の濃度を組み合わせた、30色×30色の配色例も網羅……詳しいことは実際に手に取ってみてくださると幸甚。用紙見本+配色見本も兼ね備えた造りには「あのころ、こんな便利なものがあったら……」と思わずに居られない。
コアな雑誌の「どコア」な編集長たち、集合!
『記憶に残るブック&マガジン 時代を編集する9人のインタビュー集』
深沢慶太/ビー・エヌ・エヌ新社2,200円+税
本書の以前、例えば山崎浩一氏による『雑誌のカタチ 編集者とデザイナーがつくった夢』(工作舎)や、菅付雅信氏による『東京の編集』(ピエ・ブックス)など編集者視点による「エディトリアルとデザイン」を語る本はある。そうした“先達”より本書に「ムムッ?」と思ったのは、収録9名の面子の“コアさ”。名を書けば『BACH』ブックディレクター:幅允孝、『風とロック』編集長:箭内道彦、『Numero TOKYO』編集長:田中杏子、『PAPER SKY』編集長:ルーカス・バデキ・バルコ、『BRUTUS』副編集長:鈴木芳雄、写真家+編集者:米原康正、編集者:菅付雅信、『dankai パンチ』編集長:赤田祐一、『Planted』編集長:いとうせいこうの諸氏。古きに学び、新しさを知り、オリジナルな雑誌像(本)を求めた遍歴、その“あり方”を語る。特に面白いのがいとう氏。音楽をはじめ多彩な才能を示す彼が『Hot Dog Press』の編者者だということは周知のこと。その後、作家になり、いまなぜ植物雑誌の編集長なのか? その遍歴を名人芸の語りで披露する。
サブカルチャー創世記を語る、希有な良書
『おかしな時代 『ワンダーランド』と黒テントへの日々』
津野海太郎/本の雑誌社2,800円+税
世の中には「その人が書かざるを得ない事実」というものがあって、この一冊はその大例ではないか。雑誌『本の雑誌』での連載をまとめた一冊だが、名編者者、そして名文家である津野氏が本格的に60〜70年代を回顧する本書。編集に携わる経緯から、前衛芝居集団『黒テント』との関係、日本のサブカルチャー雑誌・第一号となる『ワンダーランド』の創刊へ……。安保、東京オリンピック、大学紛争と、当時の若者たちによって“彼らの文化”が台頭してきた経緯を、著者は微細にリアルに表現してみせる。そして、クールな視点により綴られる「私」の日々——。それは確かに奇妙(つまり書名通り、おかしなもの)であったが、現在、私たちが享受しているメディアのそこかしこに、著者たちの行動と尽力が影響している実情がある! なーんて堅く考えずに読んでも、小林信彦を読むように楽しい。装幀は当然、平野甲賀氏。晶文社刊行じゃなくとも、晶文社らしさが発揮された造本である。唯一無比の切り文字。独特な間、温もりある手触りの用紙。すべてがパーフェクト。
(文・増渕俊之)
(文・増渕俊之)
(更新日:2008年10月10日)




