TYPEFONTBAT 世界の絵フォントコレクション2ほか3冊

周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
見て良し、使って良しのフリーフォント集
『TYPEFONTBAT 世界の絵フォントコレクション2』
ビー・エヌ・エヌ新社2,800円+税
様々なデザイナーがオリジナルのタイポグラフィーを競って作り出してきた、いわゆるフォント・ブームから10数年。デスクトップ環境の整備とともに興隆したブームは一段落してしまったけれど、温故知新なポスト・クラシックなものからデジタルらしさを押し出した前衛的なものまで、とにかく“自由”をキーワードにタイポグラフィーの可能性は広がった。いま、Webを見てごらん。見ず知らずのデザイナーがアップロードしたフリーフォントを勝手気ままに使える時代。そんな“自由”を獲得できるとは、まったく便利で嬉しい世の中になったものだ。10数年のフォント・ブームは、沈静の末にアンダーグラウンドなカルチャーとして脈々と受け継がれている。本書はそんなフォント事情を眺望するかのごとく、新感覚のタイポグラフィーを集約した一冊だ。
書名にある「FONTBAT」(フォントバット)とは、絵フォントのようにグラフィカルだがアルファベットとしても“ギリギリ”読めるフォントのこと。本書は世界各国のデザイナーがWeb上で公開しているタイポグラフィーの中から、そんな「FONTBAT」134書体を紹介するとともに、付属CD-ROMにフォントデータを収録。本当に“ギリギリ”なセンスが炸裂する誌面を見るのも楽しい。まるでポップ・アート。もしくはコミック。あるいはノイズ? テクノロジーの進化によって音楽の世界の“景色”が変わったように、フォントもリズミカルなステップでダンスを踊るのだ。
喋りの達人が説く「言葉」本来の役割とは?
『伝える技術50のヒント』
山中秀樹/ソフトバンク新書730円+税
デザイン業界や出版業界など、様々なクリエイティブな現場に身を置いていると、頭の中にあるイメージとアウトプットの差異に愕然とするケースがある。コンピュータのおかげで昔ほどギャップが生じることは少なくなったが、結局のところ問題は人とのコミュニケーション。意思や“像”を言葉で伝えることの難しさがそこにある。デザイナーだからグラフィカルに物事を伝えられればいいじゃん……とか、イラストレーターだから絵だけ描いて渡せばいいじゃん……という甘い考えは捨てたほうがいい。言葉によるコミュニケーションが円滑に進まねば、多くの“お仕事”というものはソフト・ランディングしてくれないのだ。メールやブログの浸透で、文字による伝達は飛躍的な進化を迎えた時代であるが、話言葉がダメな人はプレゼン以前の問題を抱えている。
本書の著者、山中秀樹氏は元フジテレビのアナウンサー。フリーとして活動する現在『サンデー・ジャポン』など幅広い番組に出演しているが、このたび自身の経験をもとに「伝える」技術の磨き方を説く全50編の箴言集を上梓した。喋りの達人を自負する氏が教えるのは「自分が伝えたいことを確実に伝える」術の数々。口下手で、自分の気持ちをうまく伝えられないと悩む人も、これを読めば話し上手に!……というほど効能があるとは言い切らない。しかし、言葉がつかえようが噛もうが、真摯に「伝える」ことの大事さを学ばせてくれる。愚直なまでにストレート。それが正しい心構えである。
プロの現場から表現テクニックを学ぼう
『魅せる、彩る、華やぐ技!
グラフィックデザイン 人気の手法、憧れの表現』
エムディエヌコーポレーション1,900円+税
たとえば“しずる感”とか“素朴感”とか。広告やソフトのコンテンツ・ビジネスの制作現場では、時代の折々、いろんな“感”が存在する。いかに受け手に思い描くイメージを伝える表現ができるか? デザイナーの表現力は細やかな部分で評価が分かれる、言ってしまえば厳しい局面を迎えていよう。PhotoshopやIllustratorを手にすれば、そこそこの表現は可能。しかし、プロの現場はそんなに甘くはない。大雑把なラフなら、まだ許せるけれど、誰もを納得させるフィニッシュまで持っていくには、微妙で繊細なテクニックを要求される……うーん、悩ましい。と思っている人にお勧めの一冊がコレ。
書名にもある通り、本書はいわば現在人気の表現トレンドを学べる技術集。大まかなコンテンツを挙げると、たとえば「いま表現したい憧れのグラフィックの技」、「押さえておくべき人気のデザインアイデア」、「Illustratorで創り出す最新のデザイン表現」、「注目すべきグラフィック表現のテクニック」……と、様々な案件に対応すべく豊富な作例をお手本に現場対応のスキルを教示する。エッジの立ったデザインからクラシカルなテイストのビジュアルまで網羅して、きっとアナタのクリエイティブに役立つだろう。また、巻末には「アナログ手法を駆使してつくるグラフィック」と「さまざまなデザインに役立つ配色アイデア」を掲載。至れり尽くせりのムックである。
匿名のアスキーアート職人に感謝!
『やる夫 1 お仕事・業界編』
ワニブックス1,200円+税
iPhoneの2ちゃんねるビューアー「BB2C」は神アプリ。PCや携帯による「2ちゃんねらー」も、一度体験したほうがいい。階層型のフリックでサクサク、まるでiPhoneが2ちゃんねる専用マシンになったかのようだ(笑)。気がつけばスポーツ新聞や週刊誌を買わなくなった。これも「BB2C」のおかげか。こんなこと書いていると「お前、2ちゃんねらーかよwww」と蔑まされる? いーや、それでも構わない。それまで外出先で携帯でチマチマ閲覧していたのがバカらしくなるほど、iPhoneによる“革命”は起きた。そして、携帯では見づらいアスキーアート(AA)の数々が素晴らしく再現。いまや海外にも浸食の手を伸ばす和製AAの文化は、iPhoneでこそ真価を発揮するのだ。
で、ここに紹介したいのは、ここ最近2ちゃんねるで人気を放つAAキャラクター「やる夫」シリーズをまとめた一冊。「〜だお」「〜するお」と語尾に「お」をつける、ちょっと間抜けだけど憎めないキャラクターが巨大掲示板を彩らない日はない。本書は、そんな「やる夫」のストーリーを2話収録。もう脱力。そして弛緩。匿名のAA職人による仕事にも感慨深いものがある。決して名前の出ないフィールドで「そこまでやるか!」と唸らせてくれよう。コンピュータの文字と記号を使った現代戯画。グラフィックに携わる人にとっても、その文化の奥深さは接しておいて損はない。
(文・増渕俊之)
更新日:2009年9月16日



