新MacBook AirでAppleが狙う“新たな”市場



新MacBook AirでAppleが狙う“新たな”市場
2010年10月29日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

新型MacBook Airが発表され、その評判も上々のようだ。初代MacBook Airのユーザーである自分にとっても、このフルモデルチェンジは大いに興味を掻き立てられる出来事だった。

しかし今回、私は購入を見送ることにした。

その理由は、性能や画面解像度が向上しているとは言え、基本的に同じフォームファクターの初号機を所有していることや、不調になった80GBのHDDの代わりに、安くなった128GBのSSDを換装用に購入してしまっていたことが大きい。

さらに、USBポートがふたつに増えた点は歓迎すべきとしても、先代モデルの“チャームポイント”であったリトラクタブルなI/Oポートがなくなり、バックライトキーボードも割愛されるなど、コストダウンされた部分も少なからず気になった(まあ、初代はHDDモデルでも約23万円したので、新型が8万8000円から購入できることを考えれば致し方ないところだが……)。

とはいえ、実機に触れて感じたのは、そのソリッドな質感や、いわゆる「ネットブック」との価格差を補ってあまりあるキータッチや基本性能の高さである。その意味で、これまでこうしたセグメントのノートPCを所有していなかった人たちにとっては、大いに魅力的な存在であるという事実には変わりない。特にコアなMacファンから見た11.6インチモデルは、PowerBook 2400以来のサブノート需要を満たすMacとして大いに歓迎されており、さもありなんと思う。

だが、新型が発表されたときいちばん最初に頭に浮かんだのは、今回のモデルが、iPhoneやiPadからアップル製品のユーザーとなった人たちに対して、母艦となるMacを安価に提供する手段となるということだった。

単に本体価格だけならばMac miniがMac製品の中で最安値だが、ほかにディスプレイやキーボードも必要なため、それまでデスクトップコンピュータすら持っていなかった層にとってはトータルな出費がかさんでしまう。

これに対して、オールインワンのMacBook Airならば、そのまま本体だけで利用でき、iOSデバイスと互いに機能を補完しうる存在になる。たとえ、一見すると方向性が似ていると思われるMacBook AirとiPadの組み合わせであっても、前者はプロダクティビティとクリエイション、後者はメディアの消費をメインとした使い分けが可能であり、事実、筆者の場合にも、ノートMacとiPadの用途は、多少の重複を見せつつも自然と棲み分けが図られている。

そうだとしても、母艦となるコンピュータがiOSデバイスとシンクロされるすべてのコンテンツを保持し、またデータのバックアップも担当することを考えると、新型MacBook AIrはやや力不足に感じられるかもしれない。母艦とするなら、そのメモリ容量はiOSデバイスの少なくとも倍は欲しいところだ。つまり、11.6インチのMacBook AIrのベースモデル(64GB)はiPadの64GBモデルの母艦とするには容量不足であり、128GBへのアップグレードが必須なのだ。

それを避けたければ、iPadは32GBか16GBモデルにすべきであり、iPhoneはいずれにしても32GB以下なので当面の問題はないものの、iPod touchには64GBモデルがあるので要注意と言える。

では、MacBook Airのベースモデルが単なる目玉商品で、結局ストレージ容量を増やさなければiOSデバイスの母艦とするのも難しい製品なのかと言えば、それは少し違う。もちろん、iPhotoやiMovieのヘビーユーザーならばすぐに容量不足に陥るだろう。一方、今では優れたクラウドストレージサービスもあり、一般的な業務や作業であれば、十分こなせるはずだ。

また、米Apple社は、iOSデバイスの容量別の販売数を公表していないので、以下はあくまで推測に過ぎないが、過去のMacの各シリーズの販売動向などを見ると、ハイエンドモデルがもっとも売れる日本市場に対して、米国のユーザーは価格にシビアのため、ローエンドモデルや中堅モデルを購入する層が多い。そこから彼の地でのiPhoneやiPadの売れ筋を考えるならば、16/32GBモデルが中心と思われ、MacBook Airのベースモデルでも十分に母艦として機能しうるのである。

個人的には、新型MacBook Airは、一般消費者にとってはかなり先鋭的でニッチな製品として見られるかもしれないが、価格で学生ユーザーを惹きつけ、スタイリッシュさでエグゼクティブユーザーを魅了するのではなかと感じている。そして、そのどちらもが、同社にとっては今後のさらなる成長に欠かせない顧客ベースなのである。


MacBook Air





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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。



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