実践! WEBビジュアルデザイン 第13回「クライアントと一緒にデザインをつくる(前編)」

web creators/MdN Design Interactive共同企画 デザイン現場の目線で“リアルに語る”

実践! WEBビジュアルデザイン 第13回「クライアントと一緒にデザインをつくる(前編)」


2011年3月18日
TEXT:文=石田裕豊((株)フォーデジット)

Webデザインに必要な知識や考え方は、普遍的なものもあれば、案件やクライアントによって変化する部分もある。PCやネットの技術やトレンドの変化によっても変わっていく。そのような知識や考え方、取り組み方を学び、考えるうえで大事なことは、現場で役に立つ、実践的でリアルな知識を得ることだ。

そこで本連載では、Webデザインの現場で役に立つ、実践的なWebビジュアルデザインのトピックや考え方、取り組み方について考えていく。





本連載では、デザインを策定するうえでの考え方や取り組み方に関して言及してきたが、今回は実際のプロジェクトの現場で、クライアントとデザインをつくっていく具体的なプロセスに関して言及する。

過去の内容をチェックしていただくとわかると思うが、プロジェクト開始後、すぐに手を動かしてデザインを作成するのは得策ではない。効果のあるデザインを策定するには、手を動かしてデザインする以上に、事前準備が非常に重要だ。そこで今回は、これまでの連載で言及したポイントも含め、「デザイン策定における準備プロセス」を具体的に説明していく。



■準備プロセス1─デザインガイドラインのチェック

企業によっては、その存在を認知させる手法としてCI(コーポレートアイデンティティ)が整備され、そこにひもづいたデザインガイドラインが存在する。企業の特徴や理念を、デザインとして具体化するするためのガイドラインは本質的なものであり、本来であればつねに参照されるべきものであるが、Webサイトのデザイン策定時にそこまで掘り下げて議論されることは、ごくまれであると言ってよい。

Webサイトは、企業のプロモーションにおけるメディアのひとつであり、あくまでもツールである。CIにひもづいたデザインガイドラインなど、企業におけるより高位の概念を確認し、その企業の、より本質的な体系を知ることによって、デザイン策定におけるヒントや、確実に踏襲すべき項目などが把握できるはずだ。



【1】「Apple Human Interface Guidelines」は、単なるデザインガイドラインに収まらないデザイナー必読の資料である

■準備プロセス2─競合比較

ほとんどの場合、企業にはビジネス上の競合が存在する。その競合と自社を比較し差別化することで、ユーザーのベネフィットを実現するのはマーケティング戦略の基本であるが、競合比較はWebサイトのデザイン策定にも非常に有効な手法である。特に大企業では、セグメントされたターゲットに向けて、明確にデザイン策定が実施されている可能性が高く、そういった明確な戦略に沿った複数の競合デザインサンプルを解析することにより、踏襲すべきポイントや、逆に差別化すべきポイントが効率的に把握できる。デザイン策定においては、ゼロからすべてを策定するのではなく、こういった競合比較などの既存情報を解析し、効率的に策定作業を進めるのもひとつの重要なポイントである。



■準備プロセス3─クライアントの考えを整理する

Webサイト作成に際しては、当然ながらクライアントが達成したい目的や想いが存在する。それらをどれだけうまく引き出せるかが、第3のポイントだ。あらゆる観点から積極的にクライアントの考えを引き出しておかないと、プロジェクトの中盤で「いや、そうではなくて実は……」といったように「デザインがひっくり返る」という事件が発生してしまう。特に担当者がデザインに対してこだわりを持っている場合や、ステークホルダーが多数いる場合は、「もっとすっきりした感じにしたい」「誠実な感じを強めたい」など、抽象的なキーワードが乱立し、プロジェクトが進むにつれて着地点が見えなくなる場合がある。

そのようなときは、クライアントに対しワークショップを実施するのも手段として有効だ。抽象的なキーワードを絞り込むような設問をいくつか用意し、それらに回答してもらうことで、より具体的なキーワードが見えてくるはずだ。このようなやり取りはもちろんアンケートでも可能なのだが、短期間でより効率的にクライアントの考えを整理する必要がある場合は、ワークショップという手段が非常に有効である。



■準備プロセス4─デザイナーの経験

ターゲットやシナリオが確定すると、ユーザーのニーズも明快になり、デザインの方向性もかなり具体的になってくる。そこで重要になってくるのが「デザイナーの経験」である。過去のプロジェクトのデザイン策定作業は、有効なデータベースとしてデザイン策定に役立つ。

「このターゲットなら以前のプロジェクトで、純粋な白よりも、中間色寄りの白が好まれ、実際に滞在時間が向上したという事例があった」など、デザイン策定者としてのプロの経験は、効果的な指摘に結びつく可能性が高い。当然ながらこのような情報は、単純にデザイナーの感性に依存した情報ではなく、プロジェクトごとにしっかりとターゲットを意識したデザインを策定し、実際の効果検証を経た情報でないと意味がない。「デザイナーの経験」とは単なる感覚値ではなく、仮説と検証に裏打ちされた明快な事実の集積なのである。



■ビジネス視点とユーザー視点

ここまでで、おおまかにではあるが「デザイン策定における準備プロセス」という観点で4つのプロセスを抽出した。これらは大別すると、

【準備プロセス1】【準備プロセス2】【準備プロセス3】 → ビジネス視点
【準備プロセス4】 → ユーザー視点

といった具合に大別することが可能である。実際のデザイン策定の現場では、これらふたつのポイントを念頭におき、きちんと確認できているケースはまだまだ少ない。

クライアントの想いばかりが先行して「ユーザー視点」がなおざりになる場合や、その逆に「ユーザー視点」ばかりにフォーカスしすぎて「ビジネス視点」が希薄になり、本来の目的とずれてしまう場合など、どちらの視点が欠けても効果的なデザイン策定を実現することはできない。より本質的なデザインを策定するためには、「ビジネス視点」と「ユーザー視点」に合致するポイントをつねに意識し、ていねいに検証していくという姿勢が重要だ。


【2】「ビジネス視点」と「ユーザー視点」に合致するポイント

3月25日更新予定の第14回目となる後編では、これらの準備プロセスをふまえ、デザイン策定時の具体的な方法論に関して考察する。




■デザイン現場の目線で“リアルに語る”実践! WEBビジュアルデザイン バックナンバー
>>> まとめページはこちらから!

第1回「デザインプロセスの落とし穴(前編)」
第2回「デザインプロセスの落とし穴(後編)」
第3回「戦略からビジュアルに落とし込む(前編)」
第4回「戦略からビジュアルに落とし込む(後編)」
第5回「デザインはなぜひっくり返るのか(前編)」
第6回「デザインはなぜひっくり返るのか(後編)」
第7回「優れたデザインに最適化していくワザ(前編)」
第8回「優れたデザインに最適化していくワザ(後編)」
第9回「ビジネスを理解したデザインとは(前編)」
第10回「ビジネスを理解したデザインとは(後編)」
第11回「デザインプロセスを知る(前編)」
第12回「デザインプロセスを知る(後編)」


CREATIVE SURVEY

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(株)フォーデジット
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