クリエイティブ業界に就職するためのポートフォリオ 第1回

短期集中連載
クリエイティブ業界に就職するためのポートフォリオ 【第1回】ポートフォリオの傾向は、業界によって大きく違う
2011年10月20日
TEXT:尾形美幸

クリエイティブ業界に就職するための必須アイテムであるポートフォリオ。採用担当者の心をつかむ、訴求力のあるポートフォリオをつくるためのポイントを、全4回の連載で紹介する。第1回の今回は、ポートフォリオをつくる目的と、業界ごとの傾向を解説しよう。

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■ポートフォリオをつくる目的

クリエイティブ業界で「ポートフォリオ」といえば、グラフィックデザインやWebサイトのデザイン、3DCG、イラスト、スケッチ、デッサンなどをファイリングした作品集のことを意味する。業界のデザイナーやアーティストの採用では、ポートフォリオがとても重視される。多くの企業が、履歴書と合わせてポートフォリオの提出を求めている。経験者はもちろん、未経験の新人に対しても同様だ。

企業の採用担当者は、ポートフォリオを通して、応募者のセンスや技術レベル、方向性、表現力の幅などを審査する。経験者の場合は即戦力レベルの力、新人の場合は将来性の有無が重視される傾向にある。多くの企業がポートフォリオ審査を通して、面接に来てもらう人を選別する。つまり、ポートフォリオの訴求力が弱ければ、応募者は採用担当者に会うチャンスさえ得られない。採用担当者に「本人に会って話を聞いてみたい」と思わせるポートフォリオをつくることが、就職や転職を目指すデザイナーが最初にクリアしなければいけないハードルといえる。


クリエイティブ業界の採用では、最初にポートフォリオと履歴書の提出を求められることが多い。まずはこれらを有効に使い、採用担当者に「本人に会って話を聞いてみたい」と思ってもらうことを目指そう


多くの場合、ポートフォリオ審査のつぎに、面接審査が用意されている。面接で、ポートフォリオについて質問される場合もある。何をポートフォリオで表現したかったのかなど、言葉で簡潔に伝えられるよう準備しておこう




■業界ごとのポートフォリオの傾向
ひと口にポートフォリオといっても、その形態や内容は業界によって異なる。就職のためのポートフォリオをはじめてつくる人は、志望する業界の一般的な傾向を最初に調べることをお勧めする。一般的な傾向を必ず踏襲する必要はないが、まずは基本を知ったうえで、自分なりのオリジナリティの出し方を考えるほうがよいだろう。参考までに、代表的な業界のポートフォリオの傾向を紹介する。



・グラフィックデザイン業界
書籍のカバー、雑誌の紙面、パンフレット、ポスター、商品パッケージ、ポストカード、フライヤーなどのグラフィックデザインを中心に構成するのが一般的だ。イラストレーションやデッサンなど、描写力を見せる作品を掲載する場合もある。

グラフィックデザイン業界の採用担当者は、掲載する個々の作品のクオリティと同じレベルで、ポートフォリオ自体のデザインのクオリティにも注目する。装丁、目次や扉のデザイン、フォントの選択、カーニングや禁則処理などの文字組み、ページネーションなど、ポートフォリオを構成するすべての要素に対して、プロレベルのていねいな気配りができているかどうか、厳しく審査される。


・Webデザイン業界
経験者の場合は、Webサイトのデザインを中心にポートフォリオを構成する。ファイリングしたポートフォリオではなく、Webサイト(ポートフォリオサイト)をつくる場合も多い。

これとは対照的に、未経験の新人の場合は、グラフィックデザインやイラストレーション、デッサンなど、Webサイト以外の作品で構成する場合もある。とくに大学の場合は、たとえ美術大学であってもWebデザインの専門教育を受けていない学生が多いので、採用担当者もWebサイト制作の技術や経験を必須とは考えていない場合が多い。こういった学生のポートフォリオの場合は、情報を整理してユーザにわかりやすく伝える情報デザインの力や、レイアウト・色彩などのセンスが評価の対象となる。


・ゲーム業界
PlayStation 3やXbox 360向けのような規模の大きいゲームを開発している企業の場合、デザイナーの仕事は細分化されている。そういった企業に応募する場合は、ポートフォリオを見ただけで、希望職種が伝わるようにしておくとよい。

たとえばモデルデザイナーを志望する場合は、キャラクターや背景の3DCGモデルを中心に構成する。表現力の幅や造形力、観察力が重視される職種なので、色々なテイストのキャラクターや、背景、小物などのモデルがあると訴求力が高い。さらにCG作品だけでなく、優れたスケッチやデッサンなどのアナログ作品も加えておくと効果的だ。

モーションデザイナー(アニメーター)の場合は、動きや映像センスが問われるため、ポートフォリオ以上にデモリール(映像作品を編集した動画)が重視される。


・CG&映像業界
3DCG映像や、CGと実写の合成映像を制作する映像プロダクションの場合、ポートフォリオではなく、デモリールでの応募が主流となっている。とくに経験者の場合に、この傾向が顕著だ。最近では、デモリールやプロフィールを掲載したWebサイト(デモリールサイト)での応募も増えている。

前述のゲーム業界の場合と同じように、規模の大きい映像プロダクションでは仕事が分業化しているため、デモリールを見ただけで希望職種が一目瞭然で伝わるように、見せ方を工夫したほうがよい。モデリングであれば造形力、アニメーションであれば動きのセンス、ライティングやコンポジット(合成)であれば色彩感覚のアピールに注力すると効果的だ。



【次回予告】第2回では、ポートフォリオのコンセプトの重要性について解説する。



実際に内定を勝ち取ったポートフォリオの解説など、より詳しいノウハウについては、書籍『クリエイティブ業界を目指す人のためのポートフォリオ見本帳』をご覧ください。
http://www.mdn.co.jp/di/book/6227/

[筆者プロフィール]
尾形美幸(おがたみゆき)●フリーランスのエディター&ライター。EduCat(エデュキャット)の屋号のもと「教育」を軸足に、書籍や教材などの制作を生業に活動中。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTS協会(財団法人 画像情報教育振興協会)にて、教材やWebサイトの企画制作を担当した後、2011年4月に独立。共著書に『CGクリエーターのための人体解剖学』(ボーンデジタル)がある。『ゲームのお仕事』業界研究フェア2011では、ポートフォリオ関連セッションのモデレータを担当。

『ゲームのお仕事』業界研究フェア2011:http://cedec.cesa.or.jp/oshigoto/2011/


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