クリエイティブ業界に就職するためのポートフォリオ 第3回

短期集中連載
クリエイティブ業界に就職するためのポートフォリオ 【第3回】ポートフォリオの第一印象が、審査結果を大きく左右する
2011年11月02日
TEXT:尾形美幸

クリエイティブ業界に就職するための必須アイテムであるポートフォリオ。採用担当者の心をつかむ、訴求力のあるポートフォリオをつくるためのポイントを、全4回の連載で紹介する。第3回の今回は、ポートフォリオの第一印象の重要性を解説しよう。

>>> 目次はこちら


■ポートフォリオ審査は短時間の勝負
出版業界では、書籍のカバーデザインやタイトルがユーザーにもたらす第一印象をとても重視する。世の中には大量の書籍があふれており、ユーザーの選択肢はあまりに多い。ある書籍がユーザーにとって有益なものであるかどうかの判断は、非常に短時間で行われる場合がほとんどだ。

同様の理由で、Webサイトの場合はトップページのデザイン、コンシューマー(家庭用)ゲームの場合はパッケージ、映画の場合は予告映像などが重要視される。

ポートフォリオの場合も、第一印象の重要性は同様だと思ってほしい。世の中にはクリエイティブ業界で仕事を得たい人が大量にいて、その数だけポートフォリオがある。人気のある企業には大量のポートフォリオが送られてくるため、採用担当者の選択肢はあまりに多い。担当者が1回の審査で目を通すポートフォリオの数は、少なくとも数十点、多い場合は数百点にのぼる。当然、1点のポートフォリオ審査にかけられる時間は限られる。短い場合は数秒、長くても数分の短時間勝負だと思ってほしい。第一印象のよくないポートフォリオは、最後まで見てもらえることなく、不採用の箱に入れられる場合もあるのだ。

ほかのポートフォリオに埋もれることなく採用担当者の心をつかむためには、インパクトのある外観や、訴求力のある構成によって、自分の存在を一瞬で印象づける必要がある。ただし、単純にインパクトがあればよい、奇をてらえばよいというものではないことも心に留めておいてほしい。しっかりとした骨太のメッセージ性や実力を備えていなければ、ポートフォリオを見慣れた採用担当者に興味をもってもらうことはできない。



■ポートフォリオの第一印象を決定づけるもの
ポートフォリオの第一印象は、どんな要素によって決定づけられるのだろうか。代表的なポートフォリオの形態ごとに、具体的に解説しよう。


・ポートフォリオの第一印象~クリアファイルの場合
もっとも手軽で一般的な形態は、市販のクリアファイルを使ったポートフォリオだ。一般的だからこそ、印象的な外観にするためには工夫が必要だ。透明なカバーのクリアファイルを選び、先頭のポケットに自分の方向性や実力が一目瞭然で伝わるビジュアルを入れる手法がよく使われる。こうすれば、ポートフォリオを開いてもらう前段階から存在をアピールできる。

不透明なカバーのクリアファイルを使う場合は、ラベルの貼りかたなどを工夫して、どちら側が表紙なのか一目でわかるようにしておこう。カバーの主張が弱すぎて、どちら側から開けばよいのかわからないポートフォリオだと、印象がよくないうえ、デザインセンスを疑われる。

加えて、採用担当者にとくにしっかり見てほしい自信作は、ポートフォリオの前半部分に集中させることも大切だ。ただし、前半と後半で、作品の質や作者の熱意に落差がありすぎるポートフォリオは、採用担当者に不信感を与えてしまう。あまりに自信のない作品は掲載しない決断も必要だ。


不透明なカバーのクリアファイルの場合、ラベルなどがなければ、天地や前後がわからない場合もある


・ポートフォリオの第一印象~製本の場合
製本は手間や費用がかかるため、制作の敷居が高い。ポートフォリオを製本してあるというだけで、希少価値が高くなり目立ちやすい。ただし製本には陥りやすい落とし穴がふたつあるので、気をつけてほしい。

ひとつ目の落とし穴は、外観と中に掲載する作品のコンセプトの統一性だ。連載の2回目で解説したとおり、明快なコンセプトのもとでつくられた、ぶれのないメッセージ性をもつポートフォリオは訴求力が高い。このメッセージは、ポートフォリオを構成するすべての要素を使った総力戦でもって表現するよう意識してほしい。たとえば和とじ製本のポートフォリオが送られてきたなら、採用側は作品にも和のテイストを期待する。ところが作品の方向性が全然違うものだったり、バラバラだったりすると、期待は失望に変わる。和とじ製本のインパクトが、完全に逆効果になってしまうのだ。

ふたつ目の落とし穴は、耐久性だ。手製本のポートフォリオは、耐久性に難があり、壊れやすい場合がある。家族や友人に試しにページをめくってもらい、余計な気を使わせることなく最後まで見てもらえるか、テストするとよいだろう。



和とじ製本のポートフォリオであれば、採用側は中の作品にも和のテイストを期待する


【次回予告】最終回となる第4回では、採用側の立場や気持ちへの配慮の重要性について解説する。



実際に内定を勝ち取ったポートフォリオの解説など、より詳しいノウハウについては、書籍『クリエイティブ業界を目指す人のためのポートフォリオ見本帳』をご覧ください。
http://www.mdn.co.jp/di/book/6227/

[筆者プロフィール]
尾形美幸(おがたみゆき)●フリーランスのエディター&ライター。EduCat(エデュキャット)の屋号のもと「教育」を軸足に、書籍や教材などの制作を生業に活動中。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTS協会(財団法人 画像情報教育振興協会)にて、教材やWebサイトの企画制作を担当した後、2011年4月に独立。共著書に『CGクリエーターのための人体解剖学』(ボーンデジタル)がある。『ゲームのお仕事』業界研究フェア2011では、ポートフォリオ関連セッションのモデレータを担当。

『ゲームのお仕事』業界研究フェア2011:http://cedec.cesa.or.jp/oshigoto/2011/


>>> 目次に戻る

MdN DIのトップぺージ