2012年のGoogleの戦略を考察する

2012年のGoogleの戦略を考察する 2011年12月05日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

2011年も数えるところ、あと4週間。ネット業界の来年のトレンドを、キープレイヤーごとに占っていこう。

まずは、依然として業界最大企業であるGoogleについて考える。12月に入り、Googleが本格的にEC事業に乗り出そうとしているという噂が流れた。もちろんEC支援という意味であれば、すでに彼らは、中核の検索結果連動型広告の副作用の形では行っている(たとえばGoogleショッピング)。しかし、実際にEC事業を行うということであれば、簡単な決済システムと効率的な物流システムが必要だ。

Googleはすでにオンライン決済はできるが、物流システムを持っていない。言い方を変えると、Googleと、もうひとつのネット業界の雄であるAmazonの違いは、この物流システムへの投資の有無と言っていい。GoogleもAmazonも、検索技術やクラウドコンピューティングのプラットフォームとして世界中のネット企業に影響を与える存在だ。両者を隔ててきた最大の相違点は、Amazonがそれらの技術的バックボーンに関わる投資をオンライン販売事業のために役立ててきたことに対し、Googleは広告事業に充ててきたということだ。つまり、GoogleがEC事業に乗り出すと言うことは、Amazonなみに効率の良い物流システム(倉庫と配送)を持とうとしているということになる。

ことの真偽はともあれ、相当に可能性のある話である。なぜならGoogleは現在、大きく分けると3つの課題に対応しなければならないからだ。まずはオンラインでの広告事業。これは、ソーシャル化するWebに対応してFacebookの侵攻をおさえる(そのためにGoogle+を成長させねばならない)という課題への対応だ。同時にAppleに対抗して、モバイルインターネットでの覇権を握るという課題もある。

3つめは、広告主のリクエストの拡張に応えていくという課題だ。これまでのWeb広告は、オンラインで広告主のWebサイトに消費者を誘導する、つまりオンラインからオンラインへのトラフィックを広告主の希望に添ってつくっていくということにとどまっており、それはGoogleでさえも同じだった。それが、いまではWebサイトに誘導された客に購買行動を起こさせるというトラフィックの帰結への付加価値と、もしくは実際の店舗に足を運ばせるというトラフィックのオフラインへの拡大誘導という付加価値を求める声が大きくなっている。

実際、全世界的にEC市場は拡大を続けており、Googleとしては自身がAmazonのようなEC事業者になり、検索によって生まれたトラフィックをそのまま購買行動にダイレクトにつなげることに対して色気を持ち始めたとしても無理はない。また、後者のオンライントラフィックのオフラインへの拡大は、O2O(オンライントゥーオフライン)と呼ばれ、Grouponがオンラインクーポン販売という手法をもって大きな事業性があることを証明したので、GoogleはGrouponの買収を試み、失敗した後は自力での参入を図っている。

GoogleとしてはFacebookとAppleへの対抗については、これまでどおりの戦略をとり続けるだろう。そしてEC事業への参入とO2Oについては、綿密な戦略と投資が必要であるが、2012年前半には彼らの衣の下の鎧が垣間見えることだろう。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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