食べログ問題で表面化したステルスマーケティングの脅威

食べログ問題で表面化したステルスマーケティングの脅威 2012年01月16日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

グルメ情報のレビューサイトである「食べログ」(運営:カカクコム)上で、特定の飲食店に対する好意的な評価を書き入れるかわりに、その飲食店から金銭を授受するというクチコミ代行業者が存在することがわかり、問題になっている。要はヤラセである。

こうした、実際には広告によってクチコミを増幅させるための手法であるのに、あたかも自然発生しているかのように見せることを、マーケティング用語としては「ステルスマーケティング」(ステマと略されることもある)という。ちなみにステルスとは、もともと軍用機や戦闘車両などがレーダーに探知されることを妨げるために考案された軍事技術の総称だ。目に見えないわけではなくて、あくまでレーダーなどのセンサーに引っかからないようにボディの形状を電波かく乱用に湾曲させるとか、吸収してしまうような塗料を使ったりしている。第二次世界大戦中にレーダーが実用化されたことを受けて、そのカウンターテクノロジーとして開発されたものだ。

広告業界ではびこるステマには、この軍事技術のような高度なテクノロジーなどない。単に消費者をだます悪意しかなく、サクラを雇って店に並ばせる的屋と変わらない。ブランディング上有効な場としてソーシャルメディアが認知され、さらにステマ自体に(上述のように)たいした技術も必要ないことから、有象無象に悪徳業者が巧言を弄して広告主を誘惑し、消費者をサクラとしてヤラセの片棒を担がせている。

数年前にはブロガーにお金を払って商品告知を行うようなサービスを表立って提供している企業も多くみられ、芸能人ブログもそうしたヤラセメディアとして活用されたが、いまでは食べログや@cosmeのようなCGMサイトを舞台に、分散したアノニマス(匿名)によるクチコミ投稿を請負う形になってきた。

広告と広報の違いは、前者がメディアにお金を払って好意的な記事を書いてもらう、もしくは自身で制作した広告クリエイティブを掲載してもらうことであり、後者はメディアと企業の間に金銭の授受は無く、掲載するかどうか、もしくはどのような評価を載せるかはメディア側の自由であるということだ。広告と広報は、明確に分けられなくてはならない。さもなければ、メディア自体が信用性を失う。テレビや新聞などのマスメディアは、長い歴史の中で、こうした公明性を担保することの重要性を認識し、自主規制的なルールやマナーを育ててきたが、それでもヤラセが入り込むリスクはつねに存在する。ステマとは広報の顔をした広告であり、これを放置すれば、メディアは存在意義をみずからドブに捨てることになる。




食べログ

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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