ソーシャルとモバイルに注力するGoogleの焦り

ソーシャルとモバイルに注力するGoogleの焦り 2012年01月23日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

Appleにスティーブ・ジョブズが復帰した際、Appleには350種類もの製品が存在していた。ジョブズは権力を掌握してまもなく、わずか10種類に絞り込んだ。製品を徹底的に絞り込み開発チームのリソースを集中させる、少ない数の製品に優秀な人材をすべて投入することで、開発サイクルを18カ月から9カ月に短縮させたのだ。

Googleはいま、同じことをしている。彼らはいま、モバイルとソーシャルの領域にすべてのリソースをつぎ込み、インターネットがリアル社会にほんとうの革命をもたらす次のディケイド(10年)に備えようとしているのだ。

Googleの強敵はさまざまな市場に存在するが、中でもモバイルインターネット上のApple、およびソーシャルネットワークのFacebookは恐るべき敵である。

AppleはiOSとAppStoreによって、モバイルインターネットの主役をWebではなくアプリにしてしまった。これにより、Webを介して世界中の情報を整理する(ことで広告収益を得る)というGoogleの野望に暗雲が立ちこめた。

また、FacebookはWeb上に巨大な私有地のような領域を作成した。Googleに検索できない情報を多く囲い込んでしまったことで、やはりGoogleの野望に黄色信号が灯っている。

現在はまだ成長を続け、収益を伸ばし続けるGoogleだが、神々の黄昏(ラグナロク)のように崩壊はいきなりくるものだということを彼らは知っている。衰退の兆しはかすかであり、多くの企業はそれを見落とすが、Googleは遅ればせながら危険を察知することができたといえる。

そこで、彼らはiOSに対してはAndroidとChromeを、Facebookに対してはGoogle+をぶつけることで対抗しようとしている。ほかにも多くの事業を手がけ、多くのベンチャーを買収してきた彼らだが、2011年中盤から、それほど将来性のない分野の事業や開発プロジェクトを急いで閉じ始めている。空いたリソースを集中分野に投下することで、開発速度を上げようとしているのだ。

インターネットの利用は、今後ますますPCからモバイル、特にスマートフォンをプラットフォームとしていく。このパラダイムシフトは想像以上に早く推移している。スマートフォンは当然ながらポータブル――つまり場所を選ばず移動する筐体だ。GPSを搭載しているから、現在の所在地・行動・感情をリアルタイムでインターネット上に刻印することが可能だ。

さらにソーシャルメディアによってそれらの情報を他者と共有し、ネットワーク化していく。これが真のダイナミックなインターネットなのだが、その主役の座を得るのはGoogleではないという可能性がでてきている。コンピューティングのプラットフォームがOSからWebへと移ったときに、GoogleはMicrosoftから主役の座を奪ったが、今度はGoogle自身がその座を追われようとしている。

特に、モバイルにおいてはAndroidがiOSとの勢力二分に成功し、なんとかAppleの独占を阻止しているが、ソーシャルにおいてはFacebookの圧倒的な侵攻になす術がなかった。

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」では、地球を侵略したいガミラス星人が、地球の大気の放射線濃度を上げようとする。人間はそんな大気の中では生きられない。ヤマトの任務は汚染された大気の放射線濃度を下げ、正常に戻すための技術を入手することだ。

GoogleにとってFacebookは、まるでWebをクローズドな環境に変えようとするガミラス星人のようなものである。なぜならGoogleは、オープンなWebでなければ生存できないからだ。つまりGoogle+はGoogleにとってのヤマトのようなものだし、そのミッションはWebをオープンなものに戻すことだ。

Apple、Facebook、Googleの三つどもえの戦いの帰趨がどうなるかによって、今後のデジタルライフの在り方が大きく変貌するので、私たち消費者にとって注意深く見守らねばならない。特に、Web業界に関わる人にとっては、死活問題に関わってくるかもしれないのである。





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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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