開発手法の常識を覆すiOSとOS X Mountain Lion

開発手法の常識を覆すiOSとOS X Mountain Lion 2012年02月20日
TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

iOS 5.1およびiPad 3の登場の噂が巷間で取りざたされるようになってきた。3月7日とも9日ともいわれているAppleの発表を心待ちにしている人は多いだろう。

Appleは、まず軽量なモバイルガジェット用OSであるiOSをアップグレードし、そこで人気の出た機能やサービスを少しずつMac OS Xにも採用する、という開発サイクルを定番のやり方に据えたと思われる。OS X Lion以降、今夏の一般公開が待たれる新OSのOS X Mountain Lionでも、iMessengerやTwitter連携などiOS 5以降の人気機能をサポートすることがわかっているし、さらにiCloudを全面的に採用する(現在のOS X Lionでは、iCloud.comに作成したiWorks書類をいちいちアップロードしないとMacから同期できない)ことが発表されている。

ITに限らず一般的な開発の手法は、重厚長大のテクノロジーから徐々に軽量なサービスモデルへと移行するというものだった。はじめに複雑で高機能な商品が開発されて、その簡易版としての仕様へダウングレードされるのがふつうである。また、企業ユースで検証された機能を消費者ユースに落としていく、というステップも通常だった。

たとえばワープロのような文書作成機はまずオフィスで使われて、徐々に自宅で使う汎用機として普及したし、MicrosoftのWindows MobileなどもまさにPC版OSの簡易版として生まれた。ところが、インターネット、そしてソーシャルメディアが普及した現在ではこれがまったく逆のステップになりつつある。

iOSの場合においても、たしかに最初は複雑なOS(Mac OS)から機能を削ってシンプルで軽いOS(iPhone OS)をつくった。そのうえでタッチスクリーンへの指先による直接的な操作方法や加速度センサーを前提としたインターフェイ スを加えて、iOSの仕様としてまとめた。しかし、いまでは逆にiOSを搭載したiPhoneやiPadで証明された機能が、Mac OS Xの正式機能として採用されるというステップこそが定番になってきているのだ。つまり、テクノロジーが川下から川上に逆流した。

簡単なものからはじまって、複雑あるいは本格的な方向へと技術移転されるという新しい商品化の流れは、Appleの成功を見て多くの企業が模倣することになるだろう。一部の専門家が策定した仕様に基づく開発ではなく、むしろなんの予備知識もない一般消費者たちの利用体験からフィードバックを得るほうがただしい。そのうえで徐々に機能追加をしていけばよい。

この動きを徹底することで、Appleはジョブズ亡きあとの進化を正しく進めていくことができると確信したと思われるし、これからのAppleに学ぶ成功の方程式になるだろう。




OS X Mountain Lion

【お知らせ】MdN Design Interactiveのコラムも読める無料iPhoneアプリ「MdN News Reader」を公開しました、ぜひご利用ください。
MdN News Reader
URL:http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/17571/



■著者の最近の記事

個人情報を無断で取得したPathは、その成長を止めてしまうのか?
Facebookを活用したリアル製品のソーシャル化
FacebookとIPO、そしてM&A
ソーシャルとモバイルに注力するGoogleの焦り
食べログ問題で表面化したステルスマーケティングの脅威
FacebookのタイムラインがWebの浄化作用を生み出す
2011年にIT業界を震撼させた3大ニュース
モバイルSNS「Path」がFacebookやGoogle+より勝るもの




[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro

MdN DIのトップぺージ