OS X Mountain Lionでさらに拡張したiOSとの親和性

OS X Mountain Lionでさらに拡張したiOSとの親和性
2012年07月26日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

WWDC 2012において7月中にリリースを行うとした予告どおり、Appleの最新OS XであるMountain Lionは、7月25日にMac App Storeを通じたダウンロード販売が開始された。

最初の告知は、前バージョンとなるLionのリリースからわずか7カ月後。Mountain Lionという名称も、根本的な新バージョンというよりは、かつてのLeopardに対するSnow Leopardのように「最適化」や「深化」を進めた存在であることを意識させる。


iOSと親和性を高めつつ、差別化も図る

Mountain Lionの第一のポイントは、Appleがここ数年に渡って取り組んできたOS XとiOSとの親和性を一層高めることにある。

完全な共通化ではなく親和性を高めるという表現をしたのは、iPad向けiBooks 2.0のオーサリング環境であるiBooks AuthorがMac上のみで動くことや、MacBook ProのRetinaディスプレイモデルなどの展開からもわかるように、Appleが両プラットフォームの役割分担という意味では、より明確な差別化を図ってきているからだ。

こうした動きを見る限り、Macはコンテンツ生成向け、iOSデバイスはコンテンツ消費向けに区別されており、両者の間に重複する部分は当然あるものの、Apple側に完全にひとつのものとして統合する意図がないことは明白といえる。

だが、それでも両者の使い勝手を近づけることには大きな意味がある。すでに双方の環境を利用しているユーザーは多く、iOSデバイスがMac購入につながるステップとしても機能しているためだ。さらに、iCloudを中心とするAppleのエコシステムの求心力を高めるうえでも、両者の親和性はキーファクターとなる。

Appleは、これを漸進的に行う道を選び、まずLionでユーザーインターフェイスの基本的な操作をiOSに近づけた。今回のMountain Lionでは、システムサービスや付属アプリケーションにおいて両者に同等の機能性を準備し、どちらでも違和感なく使えるように工夫している。

この中には、システムレベルでのTwitterなどのSNSのサポートや、スリープ中であってもメール、連絡先、カレンダー、リマインダー、メモ、フォトストリーム、「Macを探す」、Documents in the Cloud、ソフトウェアアップデートなど、必要と思われる情報の受信やシンクロ作業が自動で実行されるPowerNap機能が含まれる(ただし、ストレージにフラッシュメモリを搭載したモデルにのみ対応し、ハードディスクやSSDモデルでは機能しない)。iOSでは当たり前だったコミュニケーション関連の自動処理が、Macにももたらされた形だ。


アプリ審査も含めたセキュリティ対策

第二のポイントは、セキュリティの強化にある。かつてはほとんどウイルスやマルウエアの標的にされることのなかったOS Xだが、その普及率が高まるにつれて、効果的な対応が求められるようになってきていた。

もちろんシステムアップデートによるセキュリティホール対策は行われてきたが、より根本的な対抗策として考えられたのが、新たに設けられたGatekeeperという仕組みだ。

ご存知のように、iOSではジェイルブレイクをしない限りApp Store経由のアプリインストールしか許されていない。アプリの審査基準に対する賛否や、ときには審査をくぐり抜けてリリースされてしまう怪しいアプリはあるものの、この仕組みがiOSデバイスのセキュリティを効果的に高めてきたことは確かである。

Gatekeeperは、Mac App Store経由のアプリインストールしか許可しないことでiOSと同等の安全性を得る仕組みであり、アプリの審査を含めてiOSで定評のあるセキュリティ対策をOS Xにもたらすものだ。

ただし、Gatekeeper機能をオフすることで、これまでと同じくすべてのアプリを自由にインストール可能な設定も選ぶことができ、コンピュータリテラシーの高いユーザーニーズにも応えられるようになっている。


ワイヤレスのスクリーンミラリングも魅力

個人的には、AirPlay機能が拡張され、これまではiPhone 4S、iPad 2、新型iPadに限られていたApple TVに対する無線でのスクリーンミラリングが、Macからも可能になったことも評価したい。

登場が噂されるディスプレイ付きのApple TVを使って、MacBook Airなどからワイヤレスで大画面を利用する日も遠くないだろう。もちろん、日常的なコンピュータ作業や会議でのプレゼンテーションの在り方なども変わってくるはずだ。

こうした「飛び道具」も含めて、iOSデバイスの感覚でMac環境を利用できるようになることは、Mountain Lionを導入する最大のメリットなのである。


OS X Mountain Lion

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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