2012年のWeb業界を振り返る(1/3)

2012年のWeb業界を振り返る(1/3)
2012年12月10日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

2012年も残すところ、あと3週間となった。本年の本コラムも本稿を含めて残り三回なので、三度に渡り今年のWeb業界の動向を振り返ってみようと考える。

Webビジネスを考えるうえで、今年明確になったいくつつか大きなトピックがあると思うが、まず今回ではタブレット市場の急拡大について触れてみよう。

現在タブレット市場はiPadを擁するAppleが最大勢力として君臨しているが、Android陣営が徐々に追い上げており、2013年にはシェアの逆転もあり得そうな雰囲気だ。携帯性においてはスマートフォンに譲るものの、Webを閲覧する、アプリを使う、電子書籍などを読む、という機能性では、当然ながらタブレット端末がはるかに上だ。同時にExcelやWordなどのOffice製品を使ったり、PowerPointやIllustratorなどの画像や動的な情報を処理するクリエイティブな作業(閲覧がインプットならば、これらの作業はアウトプットな作業)ではPCほど使いやすくないのがタブレット端末だ。つまり、日々のコンピューティングにおいては、アウトプットが必要な利用シーンが減っており、インプットに最適なツールが売れる。大量のデータを読むのに適しているのがタブレット端末であり、常時性にすぐれているのがスマートフォン、ということだ。

さて、タブレット市場は現在、10インチ市場と7インチ市場にカテゴリがわかれた状態にある。10インチ市場はiPad(9.7インチ)がほぼ市場を独占しているが、7インチ市場はAppleが新たに投下したiPad mini(7.9インチ)、SamsungのGalaxy Tab(7.7インチ)、GoogleのNexus 7、そしてAmazonが鳴り物入りでローンチしたKindle Fire HD(7インチだが、8.9インチモデルもある)などが争う大激戦区になっている。本コラムはハードウエアの市場動向を解説するものではなく、あくまでWebデザイナーやサービス開発者のための技術動向や市場動向に関する情報をわかりやすくお伝えすることを目標としているので、ここでタブレット端末の市場争いの行方を深掘りする気はないのだが、プラットフォーム――特に画面の大きさと時間や場所に縛られない利用シーンの多角化は、コンピューティングそのものの構造変化や生態系の激変をまねくので、基本知識として考えておく必要がある。たとえばWebトラフィックは、ネイティブアプリの利用率が上がっていることで見のがしがちだが、じつはインターネットに常時接続されているスマートフォンやタブレット端末の普及によってかなり伸びている。しかしOS別にみると、iOS搭載機――つまりiPhoneやiPadのWeb利用は急拡大しているものの、Android搭載機では出荷台数の伸びに比べてみるとそれほど増えていない。

タブレット端末はいうまでもなくモバイルガジェットだが、画面サイズはスマートフォンがある以上、7インチより小さくなることはなく、持ち運びや操作性を考えると10インチより大きなサイズのモデルが市場を荒らすことは考えづらい。Windows 8による物理キーボードを併せ持つモデルは存在するが、こうしたハイブリッド(英語で書くとカッコ良さげだが、はっきりいえば雑種というか、良いところどりをねらった中途半端)な製品が市場を制圧することは、絶対にない。

ちなみに今後10インチと7インチのどちらがタブレット市場の中心となるかは、今のところ読めない。僕はスマートフォンとの併用製品ととらえると、10インチが主流であり続けると考えているのだが、消費者が明確な答えを出すまでにはしばらく市場は二分された状態を続けるだろう。もともとスティーブ・ジョブズは10インチがタブレット端末としての最適画面サイズと主張して、これ以上小さくするなら指を削らない限り快適な操作感は得られないとさえ言い切っていたが、彼の死後1年でAppleはiPad miniを投入してしまった。

このことでもわかるように、7インチモデルはどのメーカーも無視できないほどの勢いで、タブレット市場全体の急成長を支えている。その流れでみると、これからは10インチタブレット端末は業務利用、7インチモデルは家庭利用というように最適化されていくかもしれない。最近は実店舗で商品を確認し、値段の安いECサイトで購入するという、いわゆるショールーミングという消費行動が話題になっているが、逆に店舗側がタブレット端末を用意して、自社店舗をショールームとしながら自社ECでその場で購入させるという戦略に出ている。たとえば米国最大のスーパーマーケットチェーンのWalmartは、ショールーミングを恐れてKindleの取り扱いをしていない。その代わりに自前のタブレット端末を店舗に置き、自社完結のショールーミングを進めている。Walmartのような場合は、7インチより画面の大きな10インチが有効と思われる。O2O(オンラインからオフラインの店舗に誘客すること)はスマートフォンと7インチのサイズに適したサービスで、そして最後の最後に購買させるためのWebサイトづくりは10インチに適したサービス、というつくりわけが生まれる可能性が高いのである。その意味で、今後しばらくはスマートフォンと7インチ用の画面サイズでの利用に適したサービスやアプリのデザインと、10インチ以上の画面サイズに適した業務用アプリやサービスのデザインとで、つくり方が大きく変わるということにもなるかもしれない。


iPad mini


Nexus 7


GALAXY Tab 7.7 Plus


Kindle Fire HD 7




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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