2012年のWeb業界を振り返る(3/3)

2012年のWeb業界を振り返る(3/3)
2012年12月25日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

※本記事は「2012年のWeb業界を振り返る(1/3)」「2012年のWeb業界を振り返る(2/3)」のつづきになります。


2012年の締めは、今年前半にはソーシャルゲームとともにもっとも注目されていたはずの領域、ソーシャルメディアマーケティング市場の急激な崩壊についての考察だ。崩壊、というと語弊があるかもしれないが、2011年を通して米国で急成長していたソーシャルメディアマーケティング系のベンチャー企業たちが、2012年前半にすべて姿を消したのである、市場の崩壊と言っても過言ではあるまい。

ソーシャルメディアマーケティング市場のプレイヤーには、BuddyMedia、Vitrue、Involver、ContextOptional、Wildfireなど、ベンチャー企業の成功の基準のひとつされる企業評価額 10億ドルに達しそうな有力ベンチャー(ビリオンダラークラブと俗称される企業)が数多く存在していた。

彼らの多くはFacebookページの運用代行や投稿管理ツールの提供、Facebookタブアプリ開発などを中心に、YouTubeやTwitterなどを組み合わせつつ、クライアント企業のWebプロモーションを手がけていた。また、ソーシャルメディア上のユーザー動向調査を通じて、市場分析などのデータベース事業を行っていた。2011年には日本の電通などの代理店やメンバーズ、トランスコスモスなどといった上場企業が米国ソーシャルメディアマーケティング企業たちと提携し、日本国内での本格展開を視野に入れながら、ますますの事業伸張を狙っていたはずだった。

ところが2012年3月1日、FacebookはFacebookページのタイムライン化を発表し、タブアプリを使ったプロモーションプランがまったく意味をなさなくなったことで状況が一変した。Facebookページは単なる企業アカウントに過ぎなくなり、ページそのものに訪れるユーザーは激減した。アプリをつくっても拡散してくれるユーザーが少なくなった。Facebookページをつくる企業も、なんの意味もなさなくなったタブアプリ開発には見向きもしなくなり、見ばえのいいカバー写真を用意すること以外にはFacebookページにお金をかけなくなったのだ。

Facebookページに書き込む投稿代行やコンテンツ制作を外注する企業はまだまだいるが、タイムライン化以前と以降では、Facebookページ関連の企業予算は激減している。

この影響を受けて米国のソーシャルメディアマーケティング企業たちが選んだ戦略は、自力成長の継続でもピボット(事業戦略の転換)でもなく、イグジットの前倒しだった。つまり、身売りを選んだのだ。BuddyMediaはセールスフォースに、Vitrueはオラクルに、WildfireはGoogleに会社を売却するなど、2012年7月までに、おもな有力企業はすべて他社の傘下に入ったのである。

例に挙げたBuddyMediaなどは、まさしく機を見るに敏でみずからの企業価値の下落が本格的にはじまる前に、投資家たちも満足できる評価額での売却に成功したが、中には二束三文で叩かれた企業も少なくはないと思われる。

日本国内ではどうかというと、国内最大手のソーシャルメディアマーケティング企業といえるアライドアーキテクツは順調に事業を伸ばしているが、Facebookの懸賞アプリ開発スタートアップのクロコスは2012年8月にYahoo! Japanの傘下に入ったし、そのほかの小規模なFacebookアプリの開発企業たちは今年後半に入ってからはほとんど鳴かず飛ばずの状態になってしまっているのが現状だ。FacebookやTwitterなどのコンテンツの制作・投稿管理代行を行うタイプのベンチャーはそれなりの需要があって、安定的な事業を継続していると思われるが、先述のように、あまり大きな金額での取引は望めないので、主力事業として急成長の礎にするには心もとないだろう。なお、ソーシャルメディア上のユーザー動向調査を通じて、市場分析などを行う一種のデータベース事業はホットリンクなどが気を吐いており健在である。また、ループス・コミュニケーションズなどのコンサルティング型の企業も、タイムライン化の影響はあまり受けていない。しかし、積極的にFacebookやTwitterなどをメディアとしてプロモーションやアプリ開発を行うタイプの事業は、もはや新規参入者は現れまい。

このように、巨大なプラットフォーム(この場合はFacebook)の上に構築された生態系はプラットフォームの胸先一寸で劇的な環境変化にさらされ、あっという間に生存を危うくされてしまうリスクをつねに抱えている。ソーシャルメディアマーケティング事業は2011年に、ソーシャルゲームと並んで大きく期待された成長市場だったが、ほんの数カ月で消滅してしまった。日本国内はFacebookページ制作とタブアプリ開発の事業規模がそれほど大きくないうちに環境変化が起きたので、タイムライン化の影響が米国に比べると軽微に見えるが、それでも先行した2~3社以外はもはや入り込めない市場として、ドアが閉ざされてしまった。膨らませる前にしぼんでしまった残念な市場として、関係者の記憶に残るだろう。


セールスフォースの傘下に入ったBuddyMedia




【お知らせ】MdN Design Interactiveのコラムも読める無料iPhoneアプリ「MdN News Reader」を公開しました、ぜひご利用ください。
MdN News Reader
URL:http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/17571/


■著者の最近の記事
2012年のWeb業界を振り返る(2/3)
2012年のWeb業界を振り返る(1/3)
PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(後編)
PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(中編)
PCからモバイルインターネットのパワーシフトを検証する(前編)
アジアとアニメとアイデアがクロスする世界
セレブに広がるオリジナルWebサイトのコマース化
iPad miniはジョブズの遺志に添うものか?





[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro

MdN DIのトップぺージ