Sonyはスマートフォン市場のGT-Rをつくれるか?

Sonyはスマートフォン市場のGT-Rをつくれるか?
2013年01月15日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

GT-R(http://www.nissan.co.jp/GT-R/)とは、日産が生産している高性能スポーツカーだ。ドラマ「相棒」の前シリーズまでの相棒であった神戸尊(及川光博氏)が乗っていた車といえばわかるだろうか。GT-Rはフェラーリやポルシェに劣らぬ性能を誇るが、1000万円を切る価格帯で購入できる。安くはないがコストパフォーマンスで考えると高くない。高額商品ではあるが、無用にプレミアムを乗せられてもいない。

Sonyをはじめ、本来日本企業に必要なブランドのつくり方は、本質的にこのGT-Rに学ぶべきだと僕は考えている。つまり、絶対的な性能に支えられる高いテクノロジーと、リーズナブルな価格を両立させることだ。安物には安い理由があり、ブランド品には値が張る理由がある。しかし、すばらしい商品なのに意外と高くない、という矛盾をギリギリのところで成立させることが、本来の日本企業のお家芸であるはずだ。

SonyはCESのプレカンファレンスで、苦戦続きのローエンドのスマートフォン市場に見切りをつけ、5インチ液晶を搭載した最新Androidスマートフォン「Xperia Z」(2013年春にリリース予定)を発表し、高級機市場にフォーカスをしていくことを宣言した。僕はXperiaというネーミング自体もこの際捨てて、もっとわかりやすく新たなペットネームを与えるべきだと考えたが、ともかくGT-Rのように“カッコよくて速い”というわかりやすい商品を、“意外と高くない”金額で売り出すことを目指してほしいと思う。

前回のコラムで、Appleが廉価版iPhoneを計画しているという噂を各メディアが取り上げていることについて触れた。ブランド拡張の罠は急成長のあとに訪れる若干の停滞期に、経営者の心の中にこっそりと吹き込まれる悪魔のささやきである。

なお先週末に、マーケティング戦略担当の上級副社長であるフィル・シラーが正式に「チープな(安っぽい)スマートフォンには手を出さない」ときっぱり否定したが、当分この話題はくすぶるだろうと思われる。

日本企業が陥った罠は、良いものは高く売れる、安くするには安い部品を使い性能を落とす、というあまりに常識的かつ安易な考えに陥ったことだ。日本企業は欧米企業やアジア企業などがめんどうくさくてやらない、「高性能なのにリーズナブル」な絶妙なバランスを追いかけるという職人芸に今一度立ち返る必要があるだろう。


Xperia Z




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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