装飾を捨てて機能美を生み出すデザインの時代

装飾を捨てて機能美を生み出すデザインの時代
2013年03月25日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

ご存じの読者も多いと思うが、僕はリボルバーというスタートアップを手がけており、写真共有型&ストリーム構造をもつコミュニティを簡単につくることができる「Revolver」というプラットフォームを開発している。

ベースとして使用しているのは、Twitter社が開発/提供するCSSフレームワーク「Twitter Boostrap」だ。Twitter Boostrapは、Webデザインが得意ではないエンジニアでも簡単にTwitterライクなデザインのWebサイトをつくことができるので、最近いろいろなスタートアップが採用している(参考:http://twitter.github.com/bootstrap/)。

最近ある投資家の方と話していて、Revolverのデザインを見ながら「このトーン&マナーなら、デザイナーはいりませんね。写真が目立てばいいんですものね」というので、苦笑して「いやいや、画像の表示枠の大きさやアイコンのバランスなど、このデザインだからこそ逆に多くの工夫が必要なんですよ(つまり、クリエイティブな仕事をちゃんとしているんですよ)」と主張した。小説にさまざまな技巧があるように、わずか17文字の俳句にもまた、非常に窮屈な制約条件の中ならではの芸術的な技巧がある。つまり、モバイルという狭い画面と、写真というコンテンツを前面に押し出すことを優先しなければならないという制約があるからこそ、緻密な工夫が必要であることは、我田引水ではなく重要な事実である。

実際、リボルバーにはデザイナーという職種の人間はいない(もちろん社内でIllustratorやPhotoshopは使うが)。いないのだが、エンジニアもしくは設計者が正しく機能をUIに落とし込むことができれば、スタイリストとしてのデザイナーは不要になる。特に、モバイルインターネットがPCのトラフィックを凌駕し、スマートフォンやタブレットの小さな画面(4~10インチ)であれば、余計な装飾は必要がないどころかじゃまである。むしろ現代のインターネットビジネスでは、スタイリスト的な役割はデザイナーではなくエンジニアにもたせたほうが効率が良い場合も多くなる。だから、エンジニアにもすぐれた美的感覚が問われるような環境になってきていると僕は考えている。リボルバーでいえば、デザイナーが不要なのではなく、必要最低限ながら効率的なデザインを生み出すスタイリスト的役割は、エンジニアもしくは発案者である僕にあるわけだ。

モバイルインターネットにおいて、ゲームを別にすれば、一般的なWebサイトや情報閲覧機能をメインとするアプリケーションのデザインは、新しいパラダイムにきていると思う。たとえば、ClearというTodoアプリはボタン類が一切無く、ピンチやスワイプなどiOSが生み出した直感的な操作方法を120%活かす方向で進化している。進化といっても、年々広くなっていくデスクトップ上で繰り広げられた過剰な装飾としてのデザインや、機能美を捨ててメディアとしての実用面(つまり広告エリアの拡大ばかり)を優先したWebデザインが多くなった方向性とは異なり、狭いモバイルインターネット上ではどんどんコンパクトでシンプルな機能面を最重要視した方向性に向いている。最近人気を博しているGmail専用のメールアプリMailboxも、Clearの影響を受けているといわれている。

結論としてはこうだ。モバイルインターネットになって、デザインというものはより語源である設計に近づく。機能をシンプルに追求することで機能美が生まれ、それが絶妙なデザインをつくり出す近道になる。それはデザイナーの仕事であると同時にエンジニアの仕事でもあるし、スタートアップにおいてはむしろエンジニアのタスクと数えるべきかもしれない、ということだ。

どれだけのデザイナーがいるのかわからないが、Mailboxを開発しているOrchestraというスタートアップは、オンラインストレージサービス大手のDropboxに買収され、その金額は実に1億ドルといわれている。創業3年足らず、売上もあまりない従業員13人のベンチャーとしては上出来すぎるというべきだろう。


Clear








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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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