神仏習合――AndroidとChromeの統合はいつか?

神仏習合――AndroidとChromeの統合はいつか?
2013年04月01日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

神仏習合とは、土着の信仰と仏教信仰をひとつの信仰体系として再構成=習合することを指す。

スマートデバイス市場における神仏習合、すなわちAndroidがChromeに習合されるのは時間の問題だ。いくらラリー・ペイジが否定しようが、それはまちがいない。

ただし、この比喩の中における神とはAndroid、Chromeは仏のポジションであるが、名前として残るのはAndroidであるかもしれない。なぜならマーケティング上の観点からすると、知名度ではAndroidがChromeを圧倒しているからだ。

OSのようなプラットフォームの普及とは、宗教の伝道にかなり近いものがある。どちらも存続するためには相当の母数と規模が必要だし、つねに拡張しようとする意志が顕在している。逆に、いったん衰退しはじめると一気に収縮してしまいがちだ。

Androidは、スマートフォン市場を再構築したiPhoneの急成長を阻むための尖兵であり、Googleからすると妥協的な製品である。なぜなら、基本的にGoogleとはWeb上に棲息する生命体であり、組み込み型(ローカルにインストールするタイプ)のネイティブアプリケーションのアンチテーゼであるからだ。Androidは組み込み型のOSであり、クラウドコンピューティングを押し進めてきたGoogleからすればポリシーに反する。

Microsoftが組み込み型のWindows OSとMicrosoft Officeというキラーアプリで、デスクトップ市場を制圧していた時代に生まれたGoogleは、Webブラウザを介した標準プラットフォームであるWebに最適化することでMicrosoftを王座から蹴落とし、その座についた。さらにWebブラウザをベースとした新しいOSであるChrome OSを開発し、クラウドコンピューティングによる覇権をいよいよ広めにかかろうとしたのだが、急激に勃興したモバイルインターネットでは再びネイティブアプリの前にWebの影は薄く、そしてiOSとApp StoreというApple独自のプラットフォームがGoogleの行く手を阻んだ。Chrome OSはWebベースのOSである。GoogleとしてはこのChrome OSでAppleと対決し、モバイルインターネットをも制したかったが、残念ながらChrome OSの成長を待っていればiOSの覇権が完了してしまいかねない。

そこでAndroidを使ってAppleに挑戦し、少なくともOSのシェアのうえでは優位に立った。それがこれまでの流れだ。アンディ・ルービンに気兼ねしてChrome OSはPC市場、Androidはスマートフォン/タブレット市場というようなデュアルOS戦略をとらざるを得ない、というのが今までのGoogleのジレンマなのだった。

Googleからすると、アンディ・ルービンはやりすぎた。シェアを伸ばしてiOSの伸張に待ったをかけることには成功したものの、利益のうえではSamsungのひとり勝ち状態を生み、しかも各メーカーごとに仕様が無数にばらけてしまい、整合性においてGoogleの理想とは異なる状況に陥っている。Chrome OSはWeb準拠のエレガントなプラットフォームだが、Androidはカオスである。MicrosoftがWindows Vistaのセールスに失敗し、XP/Vista/7/8などの新旧OSやWebブラウザの混在を招いたことで互換性が薄い複数のプラットフォームをばらけさせてしまった失敗に、かなり似た状態だ。

Googleにとっては、Chrome OSをデスクトップやノートブック市場でもたもたさせておくよりも、急成長するスマートフォンやタブレット市場におけるシェアをとらせたい。そうでなければプラットフォームとして死に体になるからだ。

Googleによる神仏習合は、この2年ほどの間に大きく動くだろう。Mac OSが、NeXT OSの考え方を踏襲して生まれたOSであってもMacの名前を残したように、GoogleのモバイルOSも、Androidの名前を残してはいるが実態はChrome OS、という習合がもっともあり得る選択であると僕は考える。






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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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