TumblrはFlickrの二の舞になるか、それとも米Yahoo!の救世主になるか

TumblrはFlickrの二の舞になるか、それとも米Yahoo!の救世主になるか
2013年05月20日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

米Yahoo!がTumblrを買うという噂がネット業界を駆け巡っている。どうも2013年5月20日(米国時間)には現実になりそうなムードだ。

日本人にはなじみが薄いが、Tumblrは米国の若年層を中心に人気を誇り、世界全体で5000万人という登録ユーザーを得ているベンチャーだ。直近で8億ドルという評価額で資金調達にも成功している。

Tumblrについては過去に紹介済みなのでそちらを参考にしていただきたいが、僕の感覚でいうと日本人にはあまり向いていない、ややマニアックなサービスである。
■Tumblr──マルチメディア対応のハイブリッドブログサービス
■Tumblrは日本国内でもブレイクできるか

あらゆる事業において重要なことは、トラフィックエンジンとマネタイズエンジンを煮詰めていくことだ。トラフィックエンジンとはサービスや製品の認知度や人気を高めていくことであり、マネタイズエンジンとはその成果をお金に換えていくことだ。平たくいえばトラフィックを最大化して、それを効率よく換金することが求められる。

創業者のデビッド・カープは、これまでトラフィックエンジンとしてのTumblrを成長させていくことに専念し、収益化については無頓着な態度を取り続けてきた。大概のネットサービス、特にシリコンバレーでは同様の戦略を取ることが多いのだが、それにしても創業2~3年のうちにはなにかしらのマネタイズエンジンを採択して、収益化に着手する。Tumblrは2007年の創業以来5年以上その採択を引っ張り続けてきており、シリコンバレーにおいても異例の存在だったといえる。

その意味でいうと、TumblrはもともとIPO向きの会社ではなかったのかもしれない。Pinterestもまたそうだろうし、Instagramも同じだ。彼らはピュアなトラフィックエンジンであり、貧弱なマネタイズエンジンしかもっていない。M&Aによるイグジット戦略のうえに成立した企業群だと思う。

翻って米Yahoo!は、いまだに強大なトラフィックをもってはいるが、Googleの検索結果連動広告システムとは違って、強力な換金効率をもつマネタイズエンジンがない。いや、昔はあったが、いまは時代遅れで錆ついている。Yahoo!は最近、17歳の神童からSummlyというニュースの自動要約アプリを3000万ドルで買収しているが、これはトラフィックの換金効率を向上させるための技術になる。だから、Summlyは純粋なテクノロジーほしさの買収だったが、Tumblrの場合は違う。

Tumblrはトラフィックを集めるが、それをYahoo!に上乗せしたところで、それほど換金効率の向上や、実際の売上に直接つながるわけではないと思われる。ではなぜ買うのか?

それは若さを買うため。もっと明確にいうと、クールさを買うためだ。創業者でありCEOのデビッド・カープは1986年生まれ、今年27歳の若者だ。そして彼がつくり上げたTumblrは、先述のように米国では若年層(14~25歳)からの支持が厚い。若者はクールなモノを選ぶ。キャッチーで刺激的なモノが好きなのだ。つまり、FacebookがInstagramを買ったのと同じ理由だといえる。

こうしたブランド買いは、ファッション業界や自動車業界では一般的な手法だ。たとえばフォルクスワーゲン(VW)はトヨタ同様に総合的な自動車メーカーであり、あまり若者ウケするクールさがあるとはいえないが、実は彼らがアウディやランボルギーニ、ポルシェなどのラグジュアリーブランドを傘下に収めていることは、業界人かよほどのクルマ好きしかしらない。また、VWもあえてその事実を広告やPRで公に知らしめようとはしない。だからYahoo!も、もしTumblr買収に成功したとしても人事をいじったり、自社サービスへの統合をしてはならない。ブランドとは名前だ。Yahoo!リブログのような名前に変えた瞬間にTumblrの輝きは消え、若者からの支持もあっというまに失せるだろう。


Tumblr(iOS版)






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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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