Tumblr買収後、競合企業のイグジット戦略はどうなるか

Tumblr買収後、競合企業のイグジット戦略はどうなるか
2013年05月27日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

結局Tumblrは米Yahoo!の買収提案に応じ、11億ドルでイグジットした。しかもほぼ現金での買収というから、創業者のデビッド・カープは日本円にして260億円を手中にしたことになる。カープは今年27歳。残り少ない20代はこのままYahoo!傘下のTumblrで過ごすことになるだろうが、30代には再び新たなスタートアップを興すのか、それともマーク・アンドリーセンのような投資家の道を選ぶのかはわからない。いずれにしても、売上の確保(マネタイズエンジンの強化)よりユーザー数の確保(トラフィックエンジンの強化)をひたすらに目指してきたTumblrは、創業者も投資家もハッピーな結果となり、後続のスタートアップにとって新しい希望の星となったといえるだろう。

ちなみに、ユーザーにとってハッピーな結果になるかどうかはこれからのYahoo!とTumblrチームの相性次第であり、いまだ予測は不可能だ。

さて、ベンチャー起業家がイグジット戦略としてIPOかM&Aのどちらを狙うかにより、サービスづくりや会社の興しかたが異なるのは自明の理だ。Tumblrが最初からM&A狙いであったかはなんともいえないが、売上が小さく、トラフィックが大きい企業の場合(=マネタイズエンジンが貧弱でトラフィックエンジンが強力な企業)、イグジットはM&Aになる可能性が非常に強い。米国の場合、数千万ドルから1億ドルあたりまでの評価額で売れれば成功、数億ドルを超えてくれば大成功といえる。

ベンチャーの場合、まずはトラフィックエンジンを強化し、その後マネタイズエンジンの構築に移るが、トラフィックエンジンの成長を引っ張りすぎると、それだけ大きな資金が必要で、その資金を得るために投資家からの出資を集めることになる。経営チームが自分たちの持ち株比率を下げないようにしようと努力すればするほど、企業価値を高く設定しなければならないので、結果として会社は高くなり、今度は会社を売りづらくなる。

Tumblrと並んで米国で人気のPinterestの場合、直近で25億ドルの評価額で調達しており、売るとなれば最低30億ドルあたりになるので、Googleくらいしか売り先がないということになる。米国であっても、イグジット戦略の上限はさすがに10億ドルくらいがせいぜいだ。その意味でPinterestは、売り時を逃して引っ張りすぎたのかもしれない。

Squareのように、トラフィックエンジンが文字通りのPVやユーザー数の“交通量”ではなくて金銭のトランザクションである場合、売上というか取扱高で示される数字には$マークがつく。オンラインファミリーセールのギルト・グループもそうだが、このような企業は多少評価高が上がってもトラフィックの換金効率は高く見えるので、買い手が現れやすい。しかしトラフィックエンジン優先の企業の場合、企業価値が1億ドルを超える前後にイグジット戦略に手を付けるほうが無難である気がする。Foursquareもまた、引っ張りすぎているように思う。

日本では、ひと桁違って企業価値10億円を超えたとたんに買ってくれる企業が激減する。しかし、最近の市場環境の変化で、米国並みに高い企業価値で資金調達に成功するスタートアップも多く出ているから、イグジット戦略は当然IPO狙いに偏りがちで、結果としてマネタイズエンジン重視のベンチャーが多く現れるようになる。ソーシャルゲームやECを手がけるようなベンチャーが多いのもそのためだ。

トラフィックエンジン重視のスタートアップの場合、日本国内では借りることができるマネタイズエンジンをもつ巨大なプラットフォームに相乗りする戦略をとるベンチャーも多い。AppStoreやGooglePlayがそれで、スマートフォン用のアプリを出すことで、流通網と課金機能を同時に手に入れられることができる。

いずれにしても、TumblrがイグジットにM&Aを選んだことは、多くのスタートアップと投資家の今後の戦略の立て方に大きな影響を与えていく気がする。


Tumblr




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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