2013年のO2Oソリューションはどう進化したか(前編)

2013年のO2Oソリューションはどう進化したか(前編)
2013年06月03日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

本コラムの読者であれば、O2Oを知らない方はいないだろう。O2O(オーツーオーと読む)とはOnline to Offline、つまりインターネットを介して実店舗などのリアルな場所に送客することだ。

インターネットのビジネスは、基本的にトラフィックを集め、そのトラフィックを欲する人や企業などに向けて誘導することで生まれる。だから大きなトラフィックをもつWebサイト(たとえばYahoo! JAPAN)であれば、バナー広告の掲載チャンスを高値で販売することができる。

Googleは強力な検索エンジンの利便性をもって人を集め、そして検索結果に表示されるリンク先をユーザーがクリックすることで巨大なトラフィックを生んでいる。このトラフィックを欲する人や企業に対して検索結果連動広告というソリューションを提供することで、Googleはインターネットビジネスの覇者になっている。つまりインターネットビジネスにおいて、トラフィックさえ集めることができれば、そのトラフィックを換金することはそれほど難しいことではないのだ。

なお、トラフィックを集める・発生させる手段をトラフィックエンジンといい、そのトラフィックをお金に換える手段をマネタイズエンジンという。

従来のインターネットビジネス(特に広告)は、インターネット上で発生したトラフィックを別のWebサイトに誘導するビジネスが主流だった。つまりOnline to Onlineだった。だから、たとえば家具店がGoogleを使って自社の収益向上を図ろうとすれば、自社のWebサイトをつくって、そこにトラフィックを引き込んでもらうために、相当のコストを支払うしかなかった。また、インターネットで集めたトラフィックを換金するには、オンラインからオフライン(デジタルから非デジタル)の断層を超えねばならないから、家具店ならば自社サイトをEC化するか、楽天やYahoo!ショッピングなどの巨大モールにさらにお金を払ってECの“支店”をつくってオンライン上での換金を狙う動きが大きくなった。Googleに集まるトラフィック→自社のWebサイトに集まるトラフィック→実際の店舗に足を運んでくれるリアルのトラフィック、という流れの中で、少しでも換金効率を高めるための工夫が行われたことでEC市場が勃興し、モール事業者も増えてきた。

ところが、EC市場が拡大すると、リアル店舗で実際の商品を確認し、スマートフォンで価格比較サイトなどを確認し、より安い金額で売っているECサイトを捜すという消費者行動が顕在化してきた。リアル店舗がショールームとして扱われ、店員は単なる説明要員として利用されていることになる(これがショールーミングと呼ばれる現象だ)。仮に自社のECサイトで購入してもらったとしても、説明コストや店舗の維持コストがかさむ一方で、全体で見れば利益率を著しく落とすだけになる。これは同じO2OでもOffline to Onlineで、逆流型O2Oとも呼ぶべき事態だ。

また、レストランやテーマパーク、病院や美容院などのサービス業では、自社製品・サービスの販売をEC化することは難しく、やはりオンラインのトラフィックをオフラインのトラフィックに変換――つまり人間に足を運んでもらわなければならない。要するに、ECで売れるものはECで、店舗で買うべきものは店舗で購入してもらうというトラフィックのリーズナブルな流れを取り戻さないかぎり、事業者側としては存続の危機に陥りかねない状況にきている。

こうした問題点を解決するための手法がO2Oソリューション、である。O2Oとは、単に消費者をリアル店舗に足を運ばせるだけでなく、実際にそこで消費させる、というプランニングが絶対に必要だ。トラフィックの移動だけでは、上述のようなショールーミングによるリスクを解消することができない。

この領域でまず脚光を浴びたのが、Grouponだ。彼らは消費者に非常にお得なクーポンを与える引き換えに前払いをさせるという“画期的”なアイデアをもって、多くの顧客がリアル店舗に足を運ぶきっかけをつくったし、何よりも、まずお金を実際に払うことに消費者を同意させた。

Grouponのアイデアの有効性は一回限りで、消費者は一度は店舗に足を運ぶものの二度目はなく、いわゆるフラッシュマーケティングブームは瞬く間に去ったのだが、それでもやりようによってはO2Oは成立するという“発見”を多くのインターネット事業者に示した功績は大きい。

日本国内では主婦層のスマートフォン所有率が50%に達したとのことで、スマートフォンをベースにしたO2Oソリューションの開発や運用に事業機会を見いだすベンチャーも多くなってきている。次回は、いくつかの事例をもとに、この領域での新たな可能性について解説したい。


Groupon




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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