WWDC2013でデビューしたAnki Driveに垣間見るアップルの野望

WWDC2013でデビューしたAnki Driveに垣間見るアップルの野望
2013年06月21日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

WWDC2013の冒頭でティム・クックが紹介し、開発元であるアンキのCEOであるボリス・ソフマンが自らプレゼンテーションを行ったAnki Drive。話題の切り替えがやや唐突だったことや、デモ走行の冒頭でのマイナートラブルのために、やや要領を得ない出し物となってしまったが、ここで、そこに秘められた可能性を改めて考えてみたい。





まず、念のためAnki Driveの概要を説明しておくと、専用ミニカーに搭載されたセンサーが1秒間に500回もの頻度で自車の位置や他車の動きを把握。その情報がBlurtoothを介してiOSデバイスに送られ、アンキが提供するアプリによって瞬時に数百〜数千通りの選択肢から最適のルートを見つけ出す。この結果が高度なロボティクス技術に基づくミニカーに送信され、自動操縦によってレースが行われるというものだ。

まだ明らかになっていないのは、自動操縦とゲーム性の両立をどのように行うのかという部分だが、これも秋の正式リリースまでの間に何かしらの発表があるだろう。

さて、元々、社外のベンチャー企業によって開発されたSiriが単純な検索技術ではなかったように、Anki Driveを見てアンキがゲーム会社やトイメーカーと捉えるのは間違いだ。確かにソフマン自身も、Anki Driveはレーシングゲームであると説明した。しかし、その背後には、高度な人工知能とロボディクスの技術が存在する。アンキは、この2つのテクノロジーのスペシャリストであり、Anki Driveは、その第一弾製品に過ぎない。





それはちょうど、スマートデバイスでコントロールするクワッドコプターのAr.Droneを見て、メーカーであるパロットをラジコントイの会社であると勘違いするようなもの。パロットはワイヤレス技術のスペシャリストであって、自動車用のハンズフリーシステムから高級オーディオスピーカーやヘッドフォンなども開発・販売している。

同様にアンキも、今後、さまざまなジャンルの製品を多角展開するようになったとしても、まったく不思議はないのだ。

たとえば、グーグルはすでにUbuntuベースで独自に自律走行可能な自動車技術を開発し、走行テストを行ってきた。法律的にもネバダ州では公道上での自動運転車の試験走行、カリフォルニア州では同じく自動車免許保持者による一般走行が可能になっているが、実用レベルでの販売となると、まだ少し先の話だろう。

これに対し、現時点ではオモチャとは言え、Anki Driveは秋には200ドルで買えるシステムとして販売され、多くの消費者がその能力の高さを実感することになる。そして、ソフマンとクックが強調していたのは、このシステムの頭脳がクラウド上のサーバーやパーソナルコンピュータではなく、ローカルなiOSデバイスであるという点だ。

このことに、キーノートの後半で公開され、すでに12の自動車メーカーが2014年モデルでのサポートを表明している"iOS in the Car"の流れを重ね合わせてみるとどうだろうか?

筆者は、アンキがアップルの資金や技術リソースの提供を受けて、将来的に、iOSデバイスを接続すると自律走行が可能になるような自動車技術、さらには家庭用のロボット機器の提供も視野に入れているのではないかと推測する。さらに言えば、アップルによるアンキの買収計画も進行中かもしれない。

かつてのSiri技術がそうであったように、アンキが保有する知財は、アップルのiOS戦略にとって大きな意味を持っているのである。






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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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