ファストWebを考える

ファストWebを考える
2013年11月11日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

ゲーム業界やECなど、既存のネットビジネスのジャンルであれば、たいてい業界自体を引っ張る企業群が数社はいて、ライバル同士しのぎを削っている。

投資家の注目を浴びるには、ライバルの存在が不可欠だ。誰もいないフロンティアやブルーオーシャンを求めるのはいいが、そのエリアに大きな市場があるかどうかを投資家に予測させること自体が難しくなるので、スタートアップにとっては意外に参入しづらいエリアなのだ。

だから新たな市場に切り込んでいくスタートアップは必ず、その市場をつくることによって、結果として破壊せざるをえない市場を用意する。英語でDisruptとは破壊するという意味だが、自分たちのサービスは既存の○○市場をDisruptする、そして置き換える、と明確に説明しなければならないのだ。そしてそのうちにその市場への追随者が現れてライバル関係が明確になると、とたんに注目度があがる、というわけだ。

コイニーにはSquare、トークノートにはYammerというベンチマークがあり、無料EC市場にはBASEとStores.jpのマッチレースが多くの投資家の好奇心を煽る。

そこで僕は、最近多くのスタートアップが現れ、旧来の市場をDisruptしようとしている領域に対して、適当なネーミングをしようと思った。

それが「ファストWeb(FastWeb)」だ。

ファストWebとは、ファストフード、ファストファッションと同じ文脈となる。ファスト=Fastとは速い、という意味であることは言うまでもない。ファストファッションはファストフードから派生してできた後付けの用語だが、意味としては本家を完全に凌駕している。安かろう悪かろうではなく、ファストファッションではラグジュアリーブランドやハイファッションの最先端のトレンドをいち早くキャッチし、流行がはじまると同時に市場に商品を出し、流行が終わる前に在庫を売り切るというビジネスモデルになっている。ファストファッションが手がけるような商品は定番というよりも、シーズンごとに言葉は悪いが使い捨てになりがちな、その旬のときにしか着られないようなエッジの効いたデザインとなる。逆に言えば、ラグジュアリーブランドにおける最先端の服は、翌年には流行遅れになるリスクがあるわりにはオーバークオリティで高価過ぎるわけだ。

僕が提唱するファストWebとは、ファストファッション企業が行なっているビジネスモデルに近い。スマートフォン全盛の2013年にあっては、UIはカードデザイン(画像やサムネイルやテキストなどの情報をフラットなカード型の領域で表現。Pinterestや最近のFacebookが好例)とフラットデザインが台頭してきている。同時にマルチデバイス対応のため、レスポンシブWebデザイン(PC、タブレット、スマートフォンなど、あらゆるデバイスに最適化したWebサイトを、単一のHTMLで実現する制作手法)も急速に普及しつつある。

こうしたトレンドをいち早く取り入れて、自社のサービスやWebサイトに取り入れていくには、スクラッチで高額の予算をかけてオリジナルサイトを制作するしかなかったが、最近ではWixやWeeblyといったクラウド型のWebサイト構築サービスが台頭し、最先端のWebサイトを短時間かつ低予算で構築し、運用することが可能になっている。こうした企業を僕はファストWeb企業と呼びたい。

たとえば、最近話題になっているBASEやStores.jpなどの無料ECのOEMサービスは、ECという機能を低価格で提供するファストWeb企業だと僕は考える。ファストファッションでいえばH&MやZARAがあるが、ファストファッションの手法で眼鏡を売りはじめたJINSも、ファストファッション企業ととらえるべきだ。それと同じように、簡単に多様なWebサイトを提供するファストWeb企業群が台頭している様子を僕らは見極めなければならない。


BASE
https://thebase.in/


Stores.jp
https://stores.jp/




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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