O2Oあるいはオムニチャネルの本質を考える(後編)

O2Oあるいはオムニチャネルの本質を考える(後編)

2014年02月10日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

※本記事は「O2Oあるいはオムニチャネルの本質を考える(前編)」のつづきになります。前編をお読みでない方は、前編からお読みください。

今回は、オンライン決済ベンチャーとして知られるSquareこそ、現時点で最強のO2Oサービス提供者であるという話をしよう。

前回のおさらいとなるが、O2O(Online to Offline)――すなわちオンラインサービスや広告によって、リアル店舗への送客を行う手法に大きなビジネスチャンスがあることを証明したのはグル―ポンだった。しかし、客が店頭に向かう最大のモチベーションがクーポンによる割引にあり、リピーターにはならなかったために、グル―ポンのようなフラッシュマーケティングは一過性のブームに終わってしまった。

とはいえ、O2O自体の有用性は実証されたため、一度来店した客をリピーター化するための施策をシステム化することで、第二のグル―ポンとして台頭できると多くの企業が考えるようになった。いってみればO2O2R――オンラインからオフラインのリアル店舗に送客し、リピーターになるあるいはロイアルティを築き上げる手法をつくることだ。よく見られるのがポイントカードとの連携でたしかに有効ではあるが、結局割引にすぎないし、最近は店舗ごとのポイントカードが減り、Tポイントなどに集約されつつあるから、店ごとの差別化にはなっていないのが現状だ。

急がば回れという言葉もあるとおり、O2O2Rを実現する最大の方法は、提供する商品を磨きあげて、客に最良の体験を味わってもらうことにほかならない。とはいえ、たとえばレストランなら料理の美味しさがモノをいうわけで、それをO2Oサービス提供者が改善しようとしても無理がある。そこでO2O2Rでは、商品をとりまく各種サービスの改善に焦点を当てることが肝要となる。現時点でこの改善策をもっともうまくテクノロジーに置き換えているのは、米国のスターバックスであり、それを支えているSquareだ。

スターバックスでは、Squareアプリをインストールしたスマートフォンを所持する客が来店すると、自動的に感知する。そしてその客がレジに来ると、顔写真と名前がレジに出るから、初めて来店した客に対しても店員は「いらっしゃいませ、○○様」と声をかけられるのだ。支払いはSquareのアプリ経由で行われるため、現金はもちろんスマートフォンも出す必要がない。さらにオーダーした商品の履歴は保存されるため、ほかの店舗に行っても常連のように「いつものをください」とオーダーできるわけだ。

O2Oで抜け落ちているのは、店舗側が自分たちを覚えてほしい、好きになってほしいと望むばかりで具体的な施策を行わず、O2Oサービス提供者も改善する戦略をほぼ提供していないことだ。ゲームやクーポンだけでいい大人の気を引こうというのは傲慢なことだ。客の身になって考えれば、そう思わないだろうか?

O2O2R最大のポイントは、どんな客も常連のように扱えることである。Squareを採用していないカフェにいけば、その客はいちいち好みのコーヒーの種類やミルク・砂糖の要不要を伝えなければらない。また、支払いのための小銭を出す必要もある。

僕からいわせてもらえば、日本国内のO2Oサービス提供者も、送客には長けているがリピーター化やロイヤルティ向上という面ではSquareの足元にも及ばない。リアル店舗はすぐに店員が近寄ってくる、レジで並ぶなどもう少し洗練してほしい場面はいくつかあるが、Squareの提供するソリューションを利用することで決済手段の洗練化はもちろん、店舗と客との距離感を適度にたもつことができるだろう。

Squareは10億ドルを超える評価額をもつ超優良ベンチャーであり、すぐに彼らのまねをしようとするには無理があるが、すべてではなくても、客を温かく接待するための手法をどのようにオンラインサービスへ持ち込むかを考えるべきだろう。


Square(https://squareup.com/jp




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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