muukはいかにしてSextingに立ち向かうのか

muukはいかにしてSextingに立ち向かうのか

2014年03月10日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

かつて国内最大手のSNSだったmixiは、ゲーム畑出身者の社長昇格に続き、多額の資金をモバイルゲームの開発やマーケティング資金に投入し、主力ゲーム「モンスターストライク」のテレビCMなども開始するなど、ゲーム会社への道をまっしぐらに進みつつある。

とはいえ、簡単にはソーシャルの看板を下ろしたくないのだろう。mixiはゲーム事業への注力の反動として、新たなソーシャルサービスも発表した。それがmuukだ。国内最強はFacebookやTwitterに譲るも、国産最強SNSの座は守っていきたいという意志は尊重するし歓迎もするのだが、muukへの取り組みはややリスクが大きいと危惧している。

muukは、数秒で消える写真や動画を友人と共有できるサービスである。簡単にいえば、Snapchatのパクリだ。しかし、パクリだからといって悪いとはいわない。Facebook自身がPokeというSnapchatのクローンサービスを出しているし、国内でも以前にも本コラムで紹介したように(http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/32763/?rm=1)、リクルートが2013年秋にSeeSawというクローンアプリをリリースしている。なお、その後SeeSawに関する噂はほとんど耳にしておらず、うまくいっているのかどうかはわからない。また、FacebookのPokeは鳴かず飛ばずの状況だ。

いまではアイデア自体にほとんど価値がなく、後追いでパクったとしても、パイオニアのサービスよりも完成度が高く、かつ早く成長させることができれば賞賛される。LINEはKakao Talkのパクリだが、スタンプというテキストや絵文字に代わる(もしくは補完する)新しいコミュニケーションメソッドを加えたことで急成長をはたした。勝てば官軍なのである。

問題なのは、この消える写真・動画共有というサービスが、その性質上いわゆるSexting(性的なテキストや画像などスマートフォンなどで送る行為、SEXとtextingの混成語)に使われる可能性が高いということだ。Snapchatも相当な割合でSextingされているといわれている。

アメリカではTumblrもアダルトコンテンツの共有に使われることが多いが、創業者/CEOのデビッド・カーブは「需要がある以上問題視しない」と公言していた。Snapchatの創業者エヴァン・シュピーゲル、デビッド・カーブともに20代の若者であり、恋愛やセックスなどを日常的な関心ごととしてとらえていても不思議でない。それに、サービス全体に多少なりの背徳的な匂いをもたせることが若年層へのアピールにもなっているわけだ。「“性交と成功”は裏表だが、あからさまにエロスを全面に出すのではなく、そういうことも当然あるよね」と笑いとばす環境が彼らを守っているともいえよう。

ところが日本ではなかなかそうした環境は望めないし、そもそもmixiは上場会社であり、もはや無軌道な若者が立ち上げたスタートアップという印象はない。だからSnapchatライクなサービスを立ち上げるのは悪くないのだが、使われ方やセキュリティにはかなり気を使っていく必要があるのではないか、と思う。

最近のmixiは、出会い系サービスそのものであるYYCを買収するなど、みずからのクリーンなイメージを傷つけているようにみえる。いまでこそSNSというクリーンな呼び方に収まっているソーシャルサービスだが、その昔は「出会い系サービス」という印象を払拭するのに尋常ならぬ苦労をしたものだ。そして日本国内において、出会い系サービスからSNSという呼び方の浸透とクリーンなイメージづくりにもっとも貢献したのが、mixiである。mixiこそが、あとにつながる国産ソーシャルメディアが成長できる素地を築いたといっても過言ではない。

そのmixiが、今回の試みで、ゲーム以外はSextingサービスと出会い系サービスの会社になりたいのか、それともSextingではなくクリーンなイメージの新たなコミュニケーションツールとしてmuukを印象づけられるか、SNSで成功したような貢献を成し遂げられるか。注目をしていきたい。


muuk




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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