ニュースキュレーションアプリのマッチレースはじまる

ニュースキュレーションアプリのマッチレースはじまる

2014年03月17日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

2014年もすでに20%が過ぎ、冬は終わり春の暖かさが近づいている。そして現在のIT業界は、暖かさどころか暑い夏を思わせるホットな戦いがはじまっている。ニュースキュレーションアプリGunosyとSmartNewsのマッチレースだ。

ニュースキュレーションアプリとは、誰もが読みたいであろうニュースサイトを網羅し、最新記事の更新情報を登録したRSSリーダーといってよい。無数のRSSフィードから、ユーザーが関心をもちそうな記事を独自のアルゴリズムによりピックアップし、提供することが特徴だ。ちなみに、キュレーションとは、情報や知識を収集し、それらを必要とする相手に最適な形で提供するという意味であり、提供する人はキュレーターとよぶ。また、英語でキュレーターといえば美術館や博物館の学芸員のことをさす。

日本国内では、GunosyとSmartNewsがそれぞれ巨額の資金を集めて会員を増やしている。Gunosyは最近UIを一新したが、ライバルであるSmartNewsのUIと酷似していたためにFacebookやTwitter上で軽く炎上していたが、3月14日にKDDIとの事業・資本提携(12億円もの大型調達に成功)を発表し、さらにウルトラマンを起用したテレビCMを開始することで、状況は好転した。

最近、ペプシがコカ・コーラを意識して比較広告を行ったテレビCMが話題になっている。小栗旬を起用して、コカ・コーラを鬼、自分たちを桃太郎にたとえており、CGの完成度も相まって評判が高い。

日本で特定の競合相手を名指しでやり玉にあげる広告はめったに見ないが、見る側からすればライバル同士の戦いというのはわかりやすいし注目もしやすい。GunosyとSmartNewsのマッチレースも、同じだ。

スタートアップにもライバルがあったほうが盛り上がるのは当然で、投資家もユーザーも市場の可能性を意識しやすいから、投資が集まりやすくなるし成長の道も広がる。クラウドソーシングのランサーズとクラウドワークスの対比もわかりやすいし、BASEとSotres.jpという無料ECサービス同士の戦いも、Yahoo!ショッピングの無償化戦略への転換もあって、市場全体にインパクトを与えたといってよい。

スタートアップが挑戦し、切り開こうとする市場のほとんどは大企業が手を付けていない荒野だ。耕して田畑にするか、あるいは牧場にするか。活かし方はそれぞれの起業家の想い次第といえよう。さらにいうと、たいていの起業家は、多くの人間が荒野の存在にさえ気づいていない時期に創業する。いわば夜中の荒野、夜明け前の荒れ地だ。そういう場所だから、起業家とスタートアップは誰にも気づかれないうちに死滅することも多い。誰もいない場所であれば敵もいないわけだが、逆に味方もいないわけだ。暗闇の荒野で目立つために起業家は松明を掲げるのだが、これがじつに難しく、灯りが消えてしまう前に十分な資金や成果を手にできないことが多い。

つまり、成功しやすさを考えるには、ライバルがいる場所を探す必要もある。映画「RUSH」では早逝したF1レーサーのジェームス・ハントを取り上げていたが、年間チャンピオンになっただけの彼を主人公にしたのは、数回のチャンピオンシップに輝く偉大なレーサーであるニキ・ラウダとの因縁があったからだ。ラウダという強力無比なライバルの存在が、ハントにストーリーを与えた。喧嘩相手がいてはじめて、真の実力を見せられるということもあるだろう。

GunosyとSmartNewsのマッチレースには、実はニュースキュレーションアプリがそもそもコンテンツをもっておらず、マネタイズに難があるのではないかという両者共通のリスクが背景にあり、そのリスクをどうやって解消するかという隠れたストーリーもある。

現代のインターネット業界では、昔のMicrosoftとAppleの因縁のように長期にわたって火花を散らすような時間はなく、あっというまに勝敗が決まることが多い。しかしGunosyとSmartNewsのマッチレースは、2014年の注目の対決のひとつであることはまちがいない。


Gunosy


SmartNews




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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