テスラに見るオープンソース時代のマーケティング

テスラに見るオープンソース時代のマーケティング

2014年06月16日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

映画「インセプション」(http://wwws.warnerbros.co.jp/inception/dvd/)を覚えておられる人は多いだろう。レオナルド・ディカプリオ主演、クリストファー・ノーラン監督のサスペンス映画だが、人間の夢の中に侵入して、アイデアを盗むというビジネスを行なうチームを描いた作品である。劇中ではアイデアほど重要なものはなく、価値も高いという設定であるが、昨今の起業家や投資家に、この論調はまったく通じない。大事なのはアイデアではなく、エグゼキューション(実行力)であるというのが常識となっている。

EV(電気自動車)で世界を変えると豪語する新興自動車メーカー、テスラ・モーターズが、先日EVの基本設計の特許をオープンソース化し、誰にでも同じようなEVを開発できるように完全無償で公開した。しかし、彼らが公開したのはアイデアではなく、そのアイデアを具現化したノウハウであり、エグゼキューションの成果の大きな部分である。その意味では、そこまで踏み切るテスラのリーダー、イーロン・マスクの深謀遠慮は、僕たちの考えの及ぶところでないのかもしれない。

ただ、テスラからすれば、EV事業に多くの参入者が現れてくれるほうが現時点では都合が良い。なぜなら、2014年時点では、EVメーカーの敵はほかのEVメーカーではなく、従来型の内燃機関―つまりエンジンを用いた自動車メーカーだからだ。なおEVはモーター、従来の自動車はエンジンであり、モーター vs エンジンという対立軸も見えてくる。

EVメーカーとして最大手になったといえるテスラだが、自動車市場全体からすればまだまだ小さく貧弱だ。だからテスラは世界中の自動車メーカーにモーター vs エンジンという対立軸上で市場をとらえることを一刻も早くやめさせて、エンジンからモーターへのシフトをうながしていきたいのだ。そうすればEVを購入したあとの電力の確保やサポートが充実していくし、同じ条件でのEVメーカー同士の戦い、ということになれば、あとは純粋な性能や価格、ブランドの勝負となる。しかしテスラは、より大きな自動車メーカーが自分たちの公開した特許や設計を基にEVをつくった場合、勝てる保証がない。より次元の高いエグゼキューションのレベルが求められてくるということだ。だから、今回の特許の公開は敵に塩を送るかのような日本人的メンタリティとはほど遠く、相当にシビアな戦略的計算のはてに成立しているのではないだろうか。


テスラ・モーターズ
http://www.teslamotors.com/




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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