iPhone6は再び衝撃を与えてくれるか?(後編)

iPhone6は再び衝撃を与えてくれるか?(後編)

2014年09月16日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>iPhone6は再び衝撃を与えてくれるか?(前編)

下馬評通り、大小二種類のサイズ(小といってもiPhone 5sよりはかなり大きい)で発表された新型iPhone。4.7インチがiPhone 6、5.5インチがiPhone 6 Plusという名称となった。なお、iWatchならぬApple Watchも同時に発表になったが、今回のコラムでは触れない。また、iPhone 6とiPhone6 Plusの大きさの違いにも触れない。性能差はほとんどなく、画面の大きさと横(ランドスケープ)にしたときの挙動が少し違うことくらいだからだ。したがって、以降はiPhone 6/6 Plusと表記しよう。

iPhone 6/6 Plusは、いよいよをもってスマートフォンがコモディティ(日常品)となったことを証明する製品になった、と僕は考えている。画面サイズはあきらかにAndroidスマートフォン群の後追いだし、搭載された“新機能”も他社にない画期的なという形容詞をつけられるものはなにもない。

これまでにリークされてきた情報は結局はほぼ正確だったし、それ以上でもそれ以下でもなかった。ジョブズ時代の秘密漏えいコントロールはもはや昔の話で、サプライズはまったくなかったといってよい。iPhone 6/6 Plusは想定通りの製品で、Apple自体も謎めいた別格の企業ではない常識的な優良企業だという感想に落ち着く。

ただし、これらの感想は悪口ではない。コモディティであるからといって、イノベーションがないわけではないからだ。

今回のiPhone 6/6 Plusの地味な進化は、ほかのコモディティを破壊する方向にシフトしはじめている。つまり、他社に勝る革新性をアピールして、スマートフォン同士の戦いに集中するというよりも、iPhone 6/6 Plusはほかのコモディティの領域へと方向転換しているのだ。

具体的に、まずは決済だ。サイフ、といってもよい。指紋認証機能とリンクした支払いサービスApple Payは、日常の決済を変え、今後現金とサイフをもち歩く世界をなくしてしまうかもしれない。20年単位になるかもしれないが、電気自動車が化石燃料によるエンジン車を駆逐するのにかかる時間よりは、はるかに早く紙幣やコインを消してしまう可能性がある。

ユーザーは、自分のクレジットカードをiPhone 6/6 Plusのカメラで撮影し、指紋認証を行うことで電子決済が可能になる。NFCリーダーに対応したレジか、Apple Payに対応したオンライン取引で利用できる。東南アジアあたりだと、クレジットカードのスキミングがなくならないが、Apple Payが普及していけば、そうしたリスクも消えるだろう。

次にカメラだ。2~3万円までで買えるコンパクトデジタルカメラ――いわゆるコンデジは、すでにスマートフォンで市場を失いつつあり、カメラメーカーは10万円以上する高級コンデジや一眼レフ、ミラーレス一眼レフなどの高級機市場に逃げ込んできたが、少なくとも高級コンデジのレベルだと、iPhone 6/6 Plusの普及で消滅する可能性がある。光学式手ぶれ補正とさらに強力になったAF(オートフォーカス)は、並のデジカメでは太刀打ちできない。僕はRICOHのGRという高級デジカメを愛用しているが、iPhone 6/6 Plusの新しいカメラの前にGRでさえも相当に出番を失うことになる予感がしている。

現在のカメラの利用は紙に印刷するよりも、SNSでのシェアやメッセージングツールでのコミュニケーション利用のほうが圧倒的に多い。タイムラプス撮影にも対応したiPhone 6/6 Plusは、この傾向にさらに拍車をかけるだろう。

高級コンデジどころか、ミラーレス一眼レフあたりの市場にまでiPhone 6/6 Plusは影響を与えてしまうかもしれない。少なくともマクロ撮影くらいまでは軽くこなしそうで、望遠レンズを必要とするような撮影以外は、スマートフォンで完全にすむような時代がすぐそこだ。少なくともプロフォトグラファー的な用途を残して、すべてスマートフォンでこなすようになるのは数年先のコトだろうと思う。

この他、カーナビ市場はiPhone 6/6 Plusに破壊されることは目に見えているし、iPadなどのタブレット市場も、少なくともiPad miniのような中途半端な大きさは行き場をなくし、むしろもち運べるギリギリの大きさまで巨大化していくだろう。

スマートフォンという市場の伸張はこれからももちろん続くが、今後は、スマートフォンがどの市場を破壊するのかを注目するべきだと考えている。


iPhone 6/6 Plus




■著者の最近の記事
iPhone6は再び衝撃を与えてくれるか?(前編)
ネイティブアドの衝撃と、記事広告との違い(後編)
ネイティブアドの衝撃と、記事広告との違い(前編)
バイラルメディアのBuzzFeedが日本進出を発表
GoogleがSEOマーケティングを殺し、Facebookがソーシャルメディアマーケティングを殺す?
新ブログプラットフォームMediumがメディア事業に舵切り
モバイルオンリーの情報戦略を考える(2)
モバイルオンリーの情報戦略を考える(1)




[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro

MdN DIのトップぺージ