正月に見た、Instagramのピークタイムの兆し

正月に見た、Instagramのピークタイムの兆し


Teens Using Apple Airdrop Instead Of Snapchat And Instagram - Business Insider
http://www.businessinsider.com/teens-using-apple-airdrop-instead-of-snapchat-and-instagram-2015-1

1月2日の夜、モデルで女優の水原希子さんが志村けんさん、笑福亭鶴瓶さんにInstagramの説明をしているシーンを見た。彼女は180万人のフォロワーがいるそうだ。

希子さんいわく、テキスト主体のTwitterと違って、写真主体のInstagramは海外のファンも見てくれるし楽しんでくれる。だから若者だけではなく大人も含めて大流行しているのだと。

世界に3億人ものユーザーをもち、今では数字的にはTwitterを超える巨大なSNSへと成長している。(とはいえ水原希子さんといえば、先日Instagramで女性の股間に虹をあてた写真―女性カメラマンの作品らしい―をアップして炎上し、その弁明にはTwitterを使っていた。Instagramを偏愛していても、テキスト主体のTwitterが必要な局面もあるということだろう)。

Instagramがいまだに急成長していること自体は疑いないが、2015年1月2日のネットメディアBusiness Insiderでは、米国のティーンエイジャーの気持ちはすでにInstagram(およびSnapchat)から離れつつあるという記事が掲載されていた(http://www.businessinsider.com/teens-using-apple-airdrop-instead-of-snapchat-and-instagram-2015-1)。

正確には、InstagramとSnapchatはまだまだ若者の偏愛を受けているという状況には変わりない。Facebookは親の世代のツールであり、彼らはそこに魅力を感じることはない。記事が伝えているのは、ローティーンが写真やビデオなどを共有するために使っているのは、InstagramでもSnapchatでもなく、AirDrop(Wi-FiおよびBluetoothを介してOS X 10.7以降のPCもしくはiOS 7以降が導入されたデバイスでほかのサポートされているデバイス上実行しているユーザーとファイルを共有できる機能)を多用しているという事実であって、InstagramやSnapchatの人気が落ちているとは書いていない。

実際、AirDropはBluetoothやWi-Fiが使える範囲でしか使えないから、教室の中のようなある程度閉ざされた空間で長時間を過ごすティーンエイジャーには非常に使い勝手がいいし、家庭において親兄弟とファイルを共有するにも便利だ。つまり、物理的に友人との空間、家族との空間が分断されているからこそ、若者にとって使えるツールになっている。

逆にいえば、共有できる範囲が非常に狭いから、InstagramやSnapchatなどの世界的サービスに対抗できるようにはならない、ということだ。しかし、Business Insiderの記者は、直接書いてはいないのだが、意図するところはInstagramやSnapchatもFacebookと同じような道をたどるかもしれない可能性の示唆、だろう。

実際、すでに3億ユーザーをもち、さらに日本でも水原希子さんのような女性ファッションリーダーが、60歳を超えた旧世代の(知名度でいえば最上級の)男性コメディアンにInstagramの“楽しさ・おもしろさ”を、テレビの中で伝えている様子は、ある意味Instagramにもピークタイムがやってきていることを象徴しているようにも思える。

若者が使う人気のサービスに、親の世代が入り込んでくる。Instagramに中高年ユーザーがなだれ込んでくることも時間の問題なのかもしれないし、そのころには若者の気分はすっかり冷め切っている可能性が高い。

そう考えると、Facebookが実名主義を続けていくことは非常に重要な戦略である。InstagramもTwitterもSnapchatも実名制ではない。リアルな知人にファイルを渡すのなら、AirDropのほうが都合がいいし、もしくはメッセンジャーツールのほうがはるかに楽なはずだ。InstagramやSnapchat、そしてもちろんTwitterは、やはり不特定多数の相手に情報を伝搬させるツールなのだ。

Facebookは実名主義を貫くことで、リアル社会とのリンクをタイトにしている。これによって大人がネットワークにふえてくることで若者からは嫌われたが、若者も大人になってくれば、Facebookを通じて大人たちとリアルにつながる利点を使いたくなる。Facebookは実名主義を保つことによって、ファッションでいえばスーツの立場を維持している。若者には窮屈でも、大人になれば身にまとわざるを得ない。

InstagramやSnapchatは現時点では確かに若者のツールだが、それはジーンズと一緒だ。この数年若者は硬くて動きづらいジーンズを忌避し、チノパンなどの楽なパンツを愛用するようになっている。結果としてジーンズを愛用し続けるのは若かりし時期にジーンズをカルチャーとして受け入れた中高年のほうだ。ジーンズは昔は若者にとってクールだったが、今ではダサいものなのである。

つまり、今の10~20代はInstagramやSnapchatを使い続け、数年の間には大人も巻き込んで成長を続けるが、そのころには今の10代は20代に、20代は30代になる。同時に彼らは実名主義によって、リアルな人脈づくりに役立つFacebookにも寄っていく。そして、新たな10代の若者たちに愛される、別のサービスが立ち上がってくる。

このように、Instagramが若者に偏愛される続けるという保証はない。しかし、Facebookの子会社になったことで、スーツに合わせる良いネクタイやシューズとして、成長を続ける可能性はもっている。Instagramの創業者(ケヴィン・シストロームとマイク・クリーガー)は、あのときFacebookに売却を決断したことを悔いる必要はなく、良い決断をしたと考えるべきと僕は思っている。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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