Amazonの書籍20%オフキャンペーンは再販制度を破壊するか?

Amazonの書籍20%オフキャンペーンは再販制度を破壊するか?

2015年06月29日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)



オンライン通販大手のAmazon.co.jp(アマゾンジャパン)が、日本の書籍流通システムの“破壊”と“再生”に着手した。具体的にいうと、アマゾンジャパンは中堅出版社6社が出版した書籍のうち、発売後数年経った約110点を20%引きで販売する、というものだ。この取り組みは6月26日~7月31日の期間限定キャンペーンであるが、販売成績次第では延長や取り扱い書籍の拡張も視野に入れているはずだ。

これがなぜ書籍流通システムの破壊になるかというと、日本の出版業界を特殊化している再販制度(再販価格維持制度)の無効化につながる行為だからだ。

再販制度とは、メーカー側が小売側の販売価格(メーカーが小売に売る、それを小売が売ることを再販といっている)を指定し、安売りを許さない仕組みだ。書籍でいえば出版社が小売価格を決定し、書店は価格を変更することができない。だからアマゾンジャパンのキャンペーンは、この方針に明確に反しているように見える。

しかし、本来再販制度は独占禁止法に抵触する特殊な制度だ。仕入れた商品をいくらで売ろうが本来小売側の自由なはずである(とはいえ、過度な値引きで競合他社の疲弊を狙うことはダンピングとして禁止されている)。

だから書籍の再販制度は、仕入れた商品である書籍の価格決定権がない代償として、書店は売れない書籍を出版社に返品できる。また、全国どこの書店で購入しても、同じ書籍は同じ価格で買えるのは、再販制度による統制のおかげである。

しかし、再販制度の代償と書いた書籍の返品を許諾することは出版社には負担が大きく、現在のような出版不況の時代には、出版社側からも再販制度の見直しを検討する姿勢が見えてきている。返品してくれれば、まだ売れ行きが好調な地域に在庫を回せるからよいが、書店の棚の中に売れないまま不良在庫として置かれるのもつらい。

また小売側の書店からしても、売れない本を値引きしたり、売れ行きが好調な本と内容的に相性がよい書籍にセット価格を設定したりするなど、マーケティングやプロモーションで工夫できる幅が広がる。

ただ、多くの場合、再販制度がなし崩しにされていけば、地方の小さな書店の多くは恐らく今まで以上の経営難に陥るだろう。自由な価格設定を許された書籍販売というビジネスモデルに転換するには、短期的には大きな赤字に耐えられる大手書店チェーンとAmazon.co.jpのようなオンライン書店でなければ、着手することは難しい。

今回のアマゾンジャパンのキャンペーンに参加したのは、インプレス、ダイヤモンド社、主婦の友社、翔泳社、サンクチュアリ出版、広済堂の6社とのことだ。講談社や小学館などの大手出版社は静観している状態であり、業界全体への影響はとりあえずは大きくない。

さらに、業界にとって衝撃は大きかろうが、一般の消費者にとっては、再販制度の存在を意識することは少ない。古い本であれば、ブックオフなどの古本屋で買うことも、最近の若い世代にとってはふつうのことだ。

しかし、今回のアマゾンジャパンの取り組みが、黒船効果をもっていることは確かだ。再販制度はCDなどにも適用されており、書籍にとどまらず、日本独自のしきたりに守られているさまざまな業界に対する事実上の規制撤廃をうながす衝撃へと変質していくほうが、より重要な副作用であると考える。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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