神々の黄昏:米国Yahoo!のネット事業の売却検討の理由とは

神々の黄昏:米国Yahoo!のネット事業の売却検討の理由とは



2015年12月8日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

一般的な日本人にはどういうこと? と首をかしげるニュースだったと思うが、米国Yahoo!が中核事業であるインターネット事業を売却するのでは? という観測が流れている。

日本ではいまだに最大トラフィックを持つYahoo! Japanだが、世界的に見るとその存在感は落ちまくっており、オワコン扱いなのだ・・。

ポータルというビジネスモデルは90年代に終わっている。そして検索エンジンであればGoogle、ソーシャルメディアであればFacebook、ECであればAmazon、写真共有であればInstagram、動画共有であればYouTube、といった具合に、インターネットサービスはポータルという総合サービスから個別の専門領域に個々の巨人が居座るようになっている。

SnapchatやWhatsAppのように、その隙間に勝機を見つけて陣地を築き上げ、急成長するベンチャーも次から次へと現れるが、米Yahoo!は迷走を続けているように見える。Tumblrをはじめ、良さげなベンチャーを買うには買うが、うまく活かすこともできずにいる。結局いまだにYahoo!とはなにか?と問いに対しては、誰もが首をかしげながら「ポータル?」と答えざるをえず、「それなら終わってるね」という感想を皆が抱くことになるのである。

実際には、米Yahoo!は現在でもGoogle、Facebookに次ぐ月間訪問者数(2015年10月時点で2億1000万人という)を持つ巨大ネットサービスだ。だが、第3・四半期決算をみると売上高は10億ドルで、前年度同時期の10億9000万ドルから8.3%の下落だという。マリッサ・メイヤーCEOは、同社の事業を”Mavens”と名付けた4つの領域(モバイル、動画、ネイティブアド、ソーシャル)に絞り込む戦略を打ち立てており、その効果は出ているのだが、全体でいうと投資家や市場を満足させるのには程遠い状態である。

しかも問題なのは、全米第3位のトラフィックを誇るとはいえ、そのトラフィックの誘導コストが前年同時期の5400万ドルから2億ドル以上に膨れ上がっていて、オーガニックなトラフィックが減少していることを示していることだ。売上が下がってコストが上がっていくという悪循環に市場は嫌気差しているという状態なのである。

米Yahoo!の企業価値のほとんどを占めているのはネット事業の価値ではなく、彼らが保有している中国のEC企業Alibabaと、日本のYahoo!の株式である。ネット事業を売り払えばそこには確かに現金は残る。

実際にそういう決断に米Yahoo!経営陣が達するかどうかは別にして、解散価値が保有する他社の株式の価値でしかないという状況は、マリッサ・メイヤーだけでなく、全従業員にとっては屈辱以外なにものでもないだろう。

ネット事業を売りとばすという最悪の結果を選択するか、AlibabaかYahoo! Japan(のどちらか両方か)の株式を換金して、さらなる自社サービスでの成功にむけての挑戦を続けるか、もしかしたら年内にその結論を、マリッサは下すかもしれない。

かつてのネット業界の覇者の趨勢に注目したい。



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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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