iPad ProとSurface Pro 4の本質的な違い(前編)

iPad ProとSurface Pro 4の本質的な違い(前編)



2015年12月14日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

iPad Proがリリースされて以来、何かとマイクロソフトのSurface Pro 4と比較されることが多いようだ。

アップル自身は、表向きは他製品をベンチマークに製品開発をすることはないと公言しているものの、かつてのiPad miniが7インチタブレット市場の立ち上がりを意識して投入された(そして、成功した)ように、ライバル製品の動向を完全に無視しているわけではない。特にティム・クックの時代となってからは、完全な新規市場を切り拓くよりも、広がり始めた市場に最良のものを投入するというスタンスが強まったように感じられる。

iPad Proも、いわゆる2イン1タイプのハイブリッドデバイスのカテゴリーに対するアップルの回答といった成り立ちをしているが、Surface Proとは根本的に異なる部分があり、直接比較するのは少し違うととらえている。

たとえば、Windows OSは、Windows 8でタブレット向けに振り過ぎた傾向にあり、それが既存のデスクトップ/ノートPC系のユーザーの違和感となって表面化した。マイクロソフトも、その時点では、これからタブレットの時代になることへの焦りがあり、やや極端な施策に出たものと推測される。

その揺り戻しで、Windows 10では逆にデスクトップ/ノートPC向けに寄り過ぎた嫌いもあるが、キーボードやマウスの接続の有無により、明確にインターフェース構成を変えるContinuum機能を採用した。この機能を利用すると、デスクトップ/ノートPCとタブレットとスマートフォンで同じアプリのコードを走らせながらも、個々のデバイスに適したユーザー体験が得られるという触れ込みだ。

マイクロソフトは、Windows 8でWindowsとWIndows RT向けのアプリストアを立ち上げたが、そのラインアップは思惑通りには充実できていない。そして、ご存知のようにスマートフォンやタブレット市場では、アップルのiOSデバイスとグーグルのAndroidデバイスに席巻されている。

Windows 10は、同社がこうした状況から脱するための方策として、2つの点で理にかなうといえる。1つには、デバイスごとに別のコードを用意せずに済むため、既存のPC向けソフトハウスがタブレットやスマートフォン市場にも参入しやすくなること。そして2つめは、同社の元々の強みであるビジネス系PCユーザーがマシンをリプレースする際に、タブレットやスマートフォンまで含めて自社のエコシステムに再び引き戻しやすいことである。

Surface Pro 4は、その新戦略のシンボル的な製品だが、同じ2イン1でも、ノートPCをタブレット寄りのデザインに仕立てたものだ。同社には、よりノートPCに近い2イン1タイプのSurface Bookもあるが、ビジネスタブレット市場におけるiPadの存在感を考えると、自社のラインアップとして「ノートPCに見える2イン1」だけでは不十分で、「タブレットに見える2イン1」が必要だったと考えられる。もちろん、その上でノートPC並みのCPUやI/Oポート類を備えることも求められた。

その結果、Core m3を搭載するエントリーモデルのみファンレス化できたが、上位モデルは液冷システムを採用していてもファンが必須となり、さらに筐体周囲に無数の排熱口を設ける設計となった。

これに対し、iPad Proは完全なタブレットデバイスであり、A9Xチップの性能はCPU的には2年前のCore i5程度だが、グラフィックに関してはインテルHD 520を搭載するSurface Pro 4はもちろん、同Iris 5200を内蔵した15インチのMac Book Proをもしのぐ数字をたたき出す。にもかかわらず、初代以来のファンレス&排気口レスデザインを維持しており、I/OポートをLightningに集約したことで、薄く軽い筐体を実現した。



すでに、日本の大手企業だけを見ても、資生堂、全日空、野村證券、JR東日本、大林組、ダイキン工業などの会社が、数千台から1万台超の規模で既存のiPadを導入しており、行政関連でも神奈川県庁が1600台を業務改善ツールとして採用し、導入1週間で会議などで使われる紙の大幅削減に成功している。

iOSの制約からiPad ProがノートPC代わりにはなりえないとする意見も目にするが、逆にデスクトップOSのオーバヘッドなしにモバイルデバイスに特化したiOSには専用アプリを効率良く動かせるメリットがあり、そうでなければ上記のような企業への大量導入も起こらなかっただろう。より大きく、効率良く複数のアプリを使えるiPad Proの開発は、そうした実績も踏まえてのことだ。

ティム・クックが「もはやPCを買う理由はない」といったのも、情報へのアクセスやメディア編集機能は必要だが、コンピュータが持つ面倒さや厄介さからは逃れたいと考える大多数の人々にとって、iPad Proの方向性のほうが適しているからなのである。

ということで、今回の前編ではそれぞれの出自からiPad ProとSurface Pro 4の違いを述べてきたが、後編ではアクセサリを含めた製品デザインの観点から、さらなる考察を加えていく予定である。※後編は明日12/15(火)公開予定



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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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