iPad ProとSurface Pro 4の本質的な違い(後編)

iPad ProとSurface Pro 4の本質的な違い(後編)



2015年12月15日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

iPad ProとSurface Pro 4の似て非なる方向性の違いについてのコラム、前回に引き続き後編となる今回は、アクセサリを含めた製品デザインの観点から比較してみることにする。

Surface Pro 4は、タブレットに見えるものの、ノートPCを強く意識しているため、背面に「無段階で調節できる」キックスタンドを標準で備え、「トラックパッド付きの」タイプカバーがオプションで用意されている。

しかし、ノートPC的に使おうとすると以下のようなデメリットがある。それは、デスク上で必要となる実質的な設置面積がノートPCよりも大きく、また現実問題として膝の上などでは安定したタイプができないという点だ。

もしタイプカバーと本体がヒンジでつながっていれば、デスクなどに置いて使う際にノートPCと同等の床面積で済むが、実際には本体側をキックスタンドで自立させる必要がある。そのため、普通に使う場合でも設置面の実質的な奥行きは同サイズのノートPCの約1.5倍になる。膝にのせて安定的にタイプできないのもキックスタンドで支えるという構造的な理由による。

また、タブレットとして利用する際にも、次のような点が気になる。それは、タイプカバーを背面に折りたたんだ状態ではキックスタンドを出すことができないため、たとえば、リラックスして映画などを鑑賞したい場合にタイプカバーが目障りだとしても、手前に広げたままでキックスタンドを使うか、そのときだけタイプカバーを外さざるを得ないのだ(タイプカバーを下に敷くようにして、その上にキックスタンドを出す方法はあるものの、かなり場所をとってしまう)。

ラインナップにセルラーモデルがなく、GPS機能を内蔵していない点も、Surface Pro 4がタブレット的なデザインでありながらノートPC的な使われ方を強く意識している証といえる。


iPad ProとSurface Pro 4の底面積の比較

ティム・クックは、Surface Pro 4を評して「コンピュータとタブレット、それぞれの体験が薄まっている」という主旨の発言をしたが、そこには上に挙げたような使い勝手も含まれていると考えてしかるべきだ。

対するiPad Proは、タブレットとしての利用が基本であり、Smart Keyboard(キーボード一体式のディスプレイカバー兼スタンド)、もしくはサードパーティ製のキーボードは、まとまったテキスト入力が必要なときだけに利用するようなイメージである。

純正のSmart Keyboardは、トラックパッドや角度調節機能を持たない代わり、スタンド的に利用する場合の床面積が最小限で済み、設置面が平らになるため、膝の上でも安定してタイピングできる。また、キーボードごとたたんでスタンド状態とし、タブレットのみが見える状態で立たせることも可能だ。

ソフトキーボードで利用する場合にも、iOS 9からキートップエリア上で2本指をスライドさせるだけでキャレット(カーソルの役目を果たす縦棒)位置の変更が自在に行えるようになったため、メール/メッセージの返信や短い報告書などの作成/編集などは、ほぼストレスなく行える。タッチパネルゆえにキーストロークがない点で好みは分かれるものの、キャレット移動に手間取りがちなタッチ式デバイスの弱点は解消されたといえる(Smart Keyboard装着時には、一般的なキーボードと同様に、キャレットは独立したカーソルキーで移動する)。 

そして、(少なくとも現時点では)iPad Pro専用の入力装置であるApple Pencilは、筆圧だけでなく傾きも感知し、それを描線の質感に反映できる機能を備えている(そのため、アップルは、従来のスタイラスとは次元が異なることを"Pencil"という呼び方に込めた)。どちらかといえば、クリエイティブユース向けのアクセサリだが、ビジネスユースでもPDFなどに修正や注釈付けを行う場合などにも細かい作業ができて便利である。

これだけのアクセサリを作りながら興味深いのは、Surface Pro 4にはSurfaceペンが付属するのに対し、iPad ProのSmart KeyboardとApple Pencilはどちらもオプション扱いとなっている点だ。当初この措置は、本体価格を抑えてSurface Pro 4よりも買いやすくする狙いかとも思えた。

確かに、Surface Pro 4のエントリーモデル(Core m3、128GB)はペン付きで実売約116,500円からとなり、iPad Proの128GBのWi-Fiモデルの本体のみの価格(約117,500円)とほぼ同じとなる。しかし、Surface Pro 4はハイエンドモデルでは30万円を超え、シリーズ全体として値段的にもノートPCの領域にあるため、iPadに19,800円のSmart Keyboardと11,800円のApple Pencilをバンドルしても、十分競争力を維持できるように感じられる。

となると、そうしなかったのは、価格的な配慮というより、本体のみでも十分機能的であることをアピールしたいという意図が強いのではないかと考えられる。

もちろん、両アクセサリの供給の遅れ(筆者が個人用に注文したものは、発注から1ヶ月以上経つが、まだ届く気配がない)を思えば、発売の時点ではバンドルできるほど量産体制が整っていなかった可能性もある。だが、iPad Proはあくまでも指でタッチして使うタブレットとしての基本を突き詰めた上での2イン1化であるとの自信が、あえて本体のみの販売に踏み切らせたとしても不思議ではない。

それは、Surface Pro 4がSurfaceペンを本体側面に磁力で吸着させて持ち運べるのに対し、iPad ProにはApple Pencilを装着したり格納する場所が、Smart Keyboardや純正カバーを含めて、まったく用意されていないことからもわかる。アップルは、本来、磁石を利用した様々な仕掛けに長けているにもかかわらず、だ。

Surface Proの広告イメージが、ほぼペンとタイプカバー付きでノートPC風の見せ方あるのに対し、iPadのそれは本体のみでタブレットとしての有効性を軸にしたものが多いという点も、両社の違いを浮き彫りにする。

マイクロソフトが、iPadとの対抗上、「タブレットに見える2イン1」が必要だったように、アップルには「タブレットであることを主張する2イン1」が必須だった。それが、潜在層も含むタブレットユーザーを自社のエコシステムに引き込みたいマイクロソフトと、自ら開拓したタブレット市場を死守したいアップル、それぞれの現時点でのマーケティングに最適の解だからである。

*記事内容に一部本文を追加しました



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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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