サードパーティ製品のデザインを貶める アップルのMFi認証制度の不平等運用

サードパーティ製品のデザインを貶める アップルのMFi認証制度の不平等運用



2016年2月10日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

筆者は昨年、クラウドファンディングでChargerito(チャージリート)という製品の支援者となった。現在は、こちらの「Chargerito」でプレオーダーの受付が行われている。

この製品は、ウォールコンセントに直挿して使うスマートデバイス用のAC充電器として世界最小サイズであることを特徴とし、キーホルダーに付けて持ち運ぶこともできる。コネクタ形状の違いで2つのモデルがあり、1つはiOSデバイス向けのLightningバージョン、もう1つがAndroidデバイスなど向けのMicro USBバージョンである。

市場には、充電ケーブルをはじめとしてLightningコネクタを備えたiOS対応のアクセサリ製品が色々と出回っているが、アップルが互換性を保証した製品には、MFi(Made For iPhone/iPad/iPod)の表記がパッケージなどに印刷されている。

このMFi認証を取得するには、アップルが提示する705ページにも及ぶ仕様的なチェック項目をクリアする必要がある。実際には、アクセサリのジャンルによって該当する項目とそうでないものに分れるため、クリアすべき項目数はそこまで多くはならないものの、このような規定が用意されているからこそ、ユーザーも安心してサードパーティアクセサリを使えるわけなのだ。

ところが、最近、Chargeritoのメーカーより、開発に遅れが出ているとの連絡があった。それは、Lightning版の製品のMFi認証申請が2度に渡ってリジェクトされたためとのことだった。

リジェクトの原因は、Chargeritoにデバイスを背面から支えるサポートがないことにある。先のMFiの規定では、充電ドックにはデバイスの下端から100mmの高さまでのバックサポートが求められ、かつ、デバイスの上端に5ニュートンの力が水平にかかったときの傾きが2度以内に留まるだけの強度を持たせることが義務付けられている。

本来のChargeritoは、コンパクトさを重視しているためにこのバックサポートがないのだが、ウォールコンセントに直挿しすることで、デバイスを壁にもたれかけさせることができるので、十分、安全に使えるものとメーカーでは考えていた。

しかし、アップルは(テーブルタップのように)ウォールマウントされていないコンセントに挿して使われることがないとは限らないとの理由で、この主張を退けた。

そこで、Chargerito側は設計を変更し、筐体サイズが多少大きくなるものの、折りたたみ式のバックサポート機構を付加して再度申請を行った。すると今度は、そのバックサポートを出さずに使うユーザーがあるかもしれないので、それでは不十分との判断を下したそうだ。

仕方がないのでChargerito側は改めて構造を見直し、バックサポートを出して固定しない限り、たたまれたLightningコネクタを引き起こせないような工夫を加えて、これが現在審査中とのことである。


このようにアップル純正のiPhone Lightning Dockにはバックサポートがない

ところが、ここに1つの驚くべき事実が存在する。それは、アップル純正のiPhone Lightning Dockには、バックサポートがないのだ。この点についてはChargerito側も認識しており、これでは、いわゆる"do what I say, not what I do"的な態度ではないかと憤りつつも、立場上、粛々と要求通りのものを作ろうと努力している。

「こちらのしていることには目をつぶって、言った通りにせよ」といった意味を持つこの英語の言い回しは、たとえば、患者には禁煙を勧めるヘビースモーカーの医者を揶揄する場合などに使われるが、今回の一件は、まさにそれを地でいくようなもの。そのために、アイデアに満ちたサードパーティ製品のコンパクトさが失われたり、使い勝手が悪くなるのでは本末転倒といえる。

英語には"Sometimes, the advice you tell other people is the advice you need to follow"(あなたの他人へのアドバイスは、ときに、あなた自身が従うべきもの)という言葉もあるが、アップルはその意味を今一度しっかりと噛みしめるべきだろう。



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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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