Facebookのインスタント記事に相乗りするメディアの落とし穴

Facebookのインスタント記事に相乗りするメディアの落とし穴



2016年2月15日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

Facebookが日本国内でもスタートを発表したInstant Article。日本語ではインスタント記事、と命名したが、このネーミングはどうだろう? 実にダサい、というか、一般的に広まりづらいと思われるので、センスを疑うが、まあそれはよしとしよう。

このインスタント記事に、日本の主要メディア(「朝日新聞社」「産経デジタル」「東洋経済新報社」「日本経済新聞社」「毎日新聞社」「読売新聞東京本社」)が参画を表明しているが、今のところネット専業メディアの参加はない。

インスタント記事とは、簡単に言えば、ニュースコンテンツをFacebookが直接ホスティングして、Facebookアプリ上でコンテンツを消費させる仕組みで、グノシーやスマートニュースのようなモバイルアプリと同じようなユーザー体験を提供するものだ。

インスタント記事に参加するニュースメディアは、自社メディアへのリンクを投稿するのではなく、コンテンツをFacebookに提供して、Facebook上でコンテンツのすべてを表示させる。つまり、自社メディアへの送客を諦めることになる。

そのかわり、Facebookは インスタント記事による広告収入をメディアにシェアするし、また、メディア側もインスタント記事に直接記事広告=ネイティブアドを配信することは許される。さらに、Facebookのアプリに対応したコンテンツを作ることで、GPS対応の地図表示や音声再生などのマルチメディア対応のサービスをユーザーに届けることも可能になる。

一般的にいって、メディアとは、コンテンツを制作して提供することと、そのコンテンツを実際にオーディエンスが閲覧する場を提供することの両面を意味する。雑誌や新聞などの旧来メディアは、この定義に合致している。

そして、コンテンツを制作して提供するだけの業者は、通信社であったり番組制作会社であったりと、基本的にはメディアとは呼ばない。つまり、オーディエンスがコンテンツを閲覧する場の提供者こそが、真の意味のメディアになる。

ニュースや、エンターテインメント、ライフスタイルコンテンツを提供するメディアたちは、インスタント記事への参加は、自分たちをメディアから、コンテンツ制作会社もしくはコンテンツ配信業者という立場にシフトさせてしまう危険性があることを、理解しなければならない。

今回インスタント記事に参加した日本の6社は、これまでYahoo!Japanなどのポータルに記事を配信してきた実績と同じように考えているのかもしれないが、それは甘いと言わざるをえない。



いま、世界的に分散型メディアが流行しはじめているが、日本語で分散化というと、単にさまざまな相手にコンテンツを分散して配信するってことでしょ? と思うかもしれないが、それはニュースワイヤー、つまりコンテンツ配信業者になることであって、分散型メディアが意味するところとは少し違う。分散型メディアは英語ではDistributed Mediaといって、ディストリビュート、つまり配信された側のメディア(インスタント記事でいえばFacebook上)で、直接広告なりの収益確保を狙うという本質がある。つまり、コンテンツとともに、ネイティブアドを配信して初めて、分散型メディアと言えるのだ。

先の6社は、これを理解しているだろうか?インスタント記事に参加するということは、“メディアであることを捨ててコンテンツ配信業者になるか”、それとも“ネイティブアドを配信して分散型メディアになるか”という二者択一を迫られることになるのだ。

今後Facebookは、日本国内においても、新聞的なニュースメディアだけでなく、よりエンタメに近いコンテンツメディアへも門戸を開放するかもしれない。メディアのトップはすべからく、同じ二者択一に対して、積極的な回答と覚悟を用意しておかねばならないのである。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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