マザーズ上場したはてなは、市場の”はてな”を”!?”に変えられるのか

マザーズ上場したはてなは、市場の”はてな”を”!?”に変えられるのか



2016年2月29日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

もう一昔前になるが(実に10年前だ)、Web2.0の旗手としてもてはやされたのが、はてなだった。そのはてながマザーズに上場したことが話題になっている。

Web2.0にはいくつかの側面があるが、キーワードの一つに”マッシュアップ”という言葉があって、Webアプリケーションのハイブリッド化(複合化)あるいは複数のソースからコンテンツを組み合わせていくWebサイトやWebアプリ、あるいはその手法そのもののことを指す。

マッシュアップとはそもそも音楽業界、特にそのHipHop系のDJ用語であり、複数の曲をリミックスし、混ぜ合わせて新しい曲を作る、ちょっとアンダーグラウンドな響きを持つ手法だった。面白い例に、ビヨンセのボーイフレンドであることでも知られるラッパーのJay-Z(ジェイジー)のアルバム『ブラックアルバム』と、ビートルズの『ホワイトアルバム(正式名称ではないらしい)』をMashupして作った『グレーアルバム』というものがある。

その後、本来の音楽そのものとは乖離して「異なるソースから得た情報をリミックスする」という、スキル的な用語としての意味が一人歩きしだしたわけだが、Web2.0時代には、このマッシュアップを上手に使いこなす、技術系ITベンチャーが大いに持てはやされた。はてなは、その代表例だったと言える。

GoogleやAmazonら、米国の大手IT企業が次から次へとローンチする新サービスを、すぐさま解析して面白いサービスや機能を発表してみせる、はてなのマッシュアップの冴えに、多くの技術志向の若者が魅了されていた。

しかし、その後Web2.0ブームが去り、ネットビジネスの主流はソーシャルゲームへと移る中、徐々にITベンチャーの価値を推し量る物差しが、テクノロジーそのものよりもビジネスモデルへと変化した(1999年以前のドットコムバブルの頃も、ビジネスモデルの面白さ・ユニークさにお金が集まった。それを彷彿させるのは私には皮肉な気分である)。

結果として、はてなは徐々に受託型ビジネスへと移行し、急成長よりも安定的な収益基盤を作る方向へと舵を切ったように見えた。だから、はてなの上場に対して、いまさら?という”はてな”マークを頭に浮かべた人間は多かったと思われる。

しかし、実際には、はてなは公開価格800円を大幅に上回る初値をつけ、さらに2016年2月26日現在で3,200円(時価総額84.8億円)をつけた。実にPERでいえば81倍である。

市場は、かつてはてなが見せた、テクノロジーベンチャーとしての輝きを覚えているのだ、と私は思う。現時点での事業内容そのものを見る限りは、やはり受託型の安定ビジネスであり、ここから急速な成長を果たす材料がないようにみえるが、私も含め、ビジネスモデル偏重時代から、再びテクノロジー重視の時代へと日本のベンチャー環境へと回帰し、そしてその代表選手であったはてなが、その輝きを取り戻すことを期待している、ということだろう。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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