同じiPhoneで3種類もモデルを分けるのは、Appleの足を必ず引っ張る?

同じiPhoneで3種類もモデルを分けるのは、Appleの足を必ず引っ張る?


9to5Macの情報を基にした「iPhone SE」の予想デザイン

2016年3月7日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

Appleが3月21日(米国時間)に新製品の発表会を行うらしい。噂されているのは”小さいiPhone”のリリースだ。4インチのモニター(5sと同サイズ)を搭載し、最新のコンポーネントで性能を担保する。

スマートフォン市場は急速に成熟しつつあり、先進国には既に行き渡った。性能面でも機能面でも新規性はだいぶ失われ、ハードのアップデートを行うモチベーションは全体的に下がっていると言える。実際筆者の周囲ではいまだに5sを使っているユーザーは多いし、iPhone 6から6sに乗り換えたことで、金額に見合う変化を感得できた人はかなり少ないだろう。

よって、Appleとしては新興国市場をもっと刈り取らなければならないし、画面は小さくていいから片手で操作しやすくポケットに入りやすい、小型軽量のモデルが欲しいというユーザーの声にも対応した方が得だと考えるようになる。低価格に抑えられるならばさらに良い、というわけだ。

この戦略自体は理解できる。が、僕ならばiPhone6sと6s Plusのどちらかを廃止する。同じiPhoneで、3種類もモデルを分けるのは、Appleの足を引っ張ると考えている。

このコラムでなんども強調しているが、Appleはスティーブ・ジョブズがどうやって自社を立ち直らせたか、もう一度振り返って勉強しなおすべきだ。

ジョブズ復帰以前には、あまりにも多くのモデルのMacが乱立しており、ユーザーを混乱させていた。そこでジョブズはデスクトップとノートブックにまず二分したうえで、一般消費者向けとプロユースに分けた。つまりプロダクトラインを4種類だけ、としたのだ。それによって作る側も効率的に生産できたし、買う側もあれこれ迷わずにすむようになった。メモリーやストレージなどはオプション扱いにすればそれでいい。

さらにジョブズは、革新的なデザインと機能を持つプロダクトを”発明”した。iMacしかり、iPodしかり、である。

それなのにティム・クック率いる現在のAppleは、iPhoneにしてもiPadにしても、同じ名を関した製品を細かくモデル分けする、かつての過ちを再び犯し始めている。同時に、新しいプロダクトとして発売したAppleWatchを僕は評価しない。所詮iPhoneがなければ単独で成立できない中途半端な製品だからだ。



Appleは元・Google、今のAlphabetに時価総額ランキングで抜かれてしまった。そして、いまのままのやり方では、金輪際1位に返り咲くことはできないだろう。

製品を絞り、広告と生産の効率を研ぎ澄ます。そうしてコストを抑えることで生まれるキャッシュをR&Dにつぎ込んで、世の中をあっと言わすプロダクトを作る。それがAppleのはずだ。

小型のiPhoneを出すのはいい。だけど、製品の点数をいたずらに増やすのは愚の骨頂だ。そして、一刻も早くイノベーティブであることを証明するプロダクトをリリースしなくてはならない。

市場ではAppleがEV(電気自動車)を発売すると噂するが、我々がその噂に飽きないうちに、ぜひ 実現してもらいたいものだ。世の中をあっと言わせる、そのDNAが彼らの体内に残っているうちに。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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