モノづくりの魅力と奥深さを伝える「モノづくり探訪記」。今回はメガネの聖地・鯖江から、欧米諸国や各界著名人に愛されるメガネを送り出すアイウェアブランド「YELLOWS PLUS」を取材。国産と伝統へのこだわり、そしてさりげないお洒落を演出するデザインの秘密をご紹介します。
機能美とラインにこだわった「YELLOWS PLUS」のデザイン
品質は高いもののデザインはいま一つ……、それが2000年代初頭の日本製メガネに対する海外の評価だった。他のメガネショップなどから依頼されてデザインをしていた山岸氏が、周囲に背中を押される形で自らのアイウェアブランド「YELLOWS PLUS」を立ち上げたのもそんな時期。
シンプルで無駄のないシェイプや素材の質感にこだわった上質な仕上げは、海外の展示会をきっかけに注目を浴び、ヨーロッパを中心に徐々に人気を高めていった。今では、エルトン・ジョンやポール・ウェラーなどの海外アーティストにも「YELLOWS PLUS」の愛用者は多い。
そんな「YELLOWS PLUS」のデザインの秘訣は、意外にも「日本らしさ」と「モダンを意識しすぎない」ことだという。クラシックなスタイルをベースに、デザインやカラーリングに日本的な感性を盛り込むことで、海外のメガネには無い独特の個性を生み出しているのだ。
抜群にオシャレなのにどんな人にもよくなじむ、そんな山岸氏のデザインをいくつかのモデルと共に見ていきたい。
● ナチュラルに使いこなせるオクタゴンメガネ「DONNA」
こちらはオクタゴン型のメガネ「DONNA」。ヘキサゴン(六角形)やオクタゴン(八角形)のメガネは以前から存在するが、モダンな印象になりすぎるので、初めてかける時は少し勇気がいるものだ。しかし、この「DONNA」は、直線を強調しすぎないラインがとても柔らかな印象。アセテートの色合いも自然で、角形メガネ初心者でも手に取ってみたくなる一本になっている。
●伝統と革新のクラウンパント型メガネ「CECIL」
「YELLOWS PLUS」は、上部を直線的に切り落とした「クラウンパント型」と呼ばれるデザインも得意としており、こちらもさりげないオシャレを演出したい人にはオススメである。この「CECIL」は、フレームの接合部にネジではなくカシメが採用されているのもポイント。
ネジを使うとネジ穴を作るためにフレームを太くしなければならず、デザイン的な制約が多くなってしまう。カシメだからこそ省スペースで高い強度が得られ、突起のないスッキリしたデザインが可能になっているのだ。裏側にチタンの一本フレームを通すのも、「YELLOWS PLUS」のアイコンとも言うべき独自のデザインである。
● 流行のラウンド型メガネにクラシック要素を取り入れた「BILL」
さまざまな型のメガネの中でも、山岸氏が特に強いこだわりを持っているという「丸眼鏡」の最新スタイル。細身でゴールドのチタンフレームと、ツルやリム表にあしらわれた上品なピンクのコントラストが美しい女性向きのモデルだ。
ツルの先端はチタンフレームの端を三角形に折り曲げたデザイン。プラスチック素材が普及していなかった頃のクラシックなデザインが元になっているが、かけ心地の良さや軽さといった機能的な面でも優れている。
● 日本人に似合うフォックス型メガネ「GRACE」
「キャットアイ」とも呼ばれる目尻が上がったシェイプはヨーロッパで好まれるスタイルだ。しかし、日本人がかけると少しキツイ印象になりすぎる。この「GRACE」は、欧米で売られているものより少し目尻のラインをさげることで柔らかな印象に。それでいて表情を引き締めてくれるので、接客業の女性などに評判がよい。
● 金属+金属コンビネーションで魅せる「NIGEL」
定番のボストン型やウェリントン型は、シーンによって使い分けられるさまざまなタイプがラインナップされている。
細めのチタンフレームが美しい曲線を描く「NIGEL」は、質感の違う二種類の金属を組み合わせたモデル。メガネの裏側にリム表面とは違う質感のチタンフレームが一本通っており、角度によってチラリと覗くシルバーが心憎い。
ビンテージ感のあるダメージシルバーのサイドにはミール打ちの模様がクラシックな要素を添えている。先セルはラウンド型の「BILL」と同じ三角形のタイプだ。
● ボリューム感のある「CATH」は、研ぎ澄まされたシンプルなフォルムで
ノーメイクの女性が隠したい部分を全部隠せるような、大ぶりなシルエットが特徴的な「CATH」。サイドからの遮光・風防効果も考えた極太フレームは後ろにいくにつれて厚みが増す形状になっている。これは、薄めになった前方でツルの“たわみ”を作るとともに、かけた際の荷重を後方にずらして鼻パットの圧迫を軽くする効果を狙ったものだ。
「YELLOWS PLUS」のアイウェアすべてに共通する特徴として、余分な装飾のないシンプルさというのがある。この「CATH」もキーホールのないスッキリとしたデザインで、ボリュームはあるのにどこかスッキリとした印象に仕上がっている。
「流行を追いすぎると廃れていくのも早い。YELLOWS PLUSは長年愛されるメガネに育て上げていきたい」という山岸氏。オクタゴン型のような前衛的なデザインを取り入れながらも“主張しすぎない新しさ”が山岸氏のデザインコンセプトだ。
珠玉の一本は、鯖江で培われた技術の積み重ねから
~「YELLOWS PLUS」に隠されたたくさんの工夫~
山岸氏こだわりのメガネが作られているのは、メガネの聖地・福井県鯖江市。「YELLOWS PLUS」のメガネは、この土地で無ければ作ることのできない職人の技に支えられている。それをよく表しているのが、ブリッジ部分に繊細なツタの彫刻がほどこされた「BETTY」だ。これは鯖江の職人が手彫りした型が元になっており、現在、この原型が作れる職人は鯖江にも1~2人しかいないらしい。手彫りのニュアンスを残した温かみのある凹凸がメガネに特別感を与えている。
丁番部分に金属のアクセントが効いたこちらの仕上げも職人技。触ってみると素材の境目が全くわからないほど滑らかに磨き上げられているが、金属とプラスチックの固さは全く違うので、力を入れて磨けば当然プラスチック(アセテート)が先に削れてしまう。山岸氏のデザインを完璧な形で実現するには、高い職人技が必要になるのだ。
さりげなく取り入れられたクラシカルな要素にも注目したい。サングラス「LEON」では、鼻パット部分に「抱き蝶」と呼ばれる方式が採用されている。通常のねじ止めとは異なり、二つの金属を折り曲げて挟むように留める方法で、これがモダンなサングラスにクラシカルなアクセントを加えている。
さらにこんなところにもこだわりが!
山岸氏は、自らのブランドの製造において「hand finish」という謳い文句を掲げている。部品の精度だけを考えれば機械の方が上だが、それをメガネとして完成させるには鯖江の職人の手仕事が不可欠。
コストや生産効率のために昔からの技術は切り捨てられてしまうことも多いが、「昔からあるいいもの」は使い続けたいというのが山岸氏の考えだ。それを最新の技術と融合させながら残していきたいという意思が「YELLOWS PLUS」のメガネには込められている。
ブランド立ち上げ当初は、なかなかデザインの意図を職人達に伝えられず「作りたい物が作れない」という悩みを感じたこともあったという山岸氏。だが時間を重ねていくうちに図面だけでは伝わらない感覚も職人達とも共有できるようになった。
フレームの角の立ち方、テンプルのたわみ具合、かけた時の微妙なバランスなど、設計図や数値だけでは伝えられないニュアンスを理解しあえるのも、同じ言葉と感性でモノ作りを進められる「日本製」だからこそだという。
最高のメガネにはかける人をも変える魔法がある
デザインやコンセプトにこだわり、鯖江メイドの丁寧な仕上げを施した多種多彩なメガネを取りそろえている「YELLOWS PLUS」。山岸氏にその中からどんなメガネを選べばいいのかを伺ってみた。すると「選ぶメガネによって印象は大きく変わります。自分のイメージと違うと思わず、その違ったイメージを楽しんでほしい」との言葉が。
これぞという一本を厳選するのではなく、その日の気分で着せ替えられるように色々なメガネを選んでみる……、それがメガネを楽しむ秘訣なのかも知れない。
「YELLOWS PLUS」のメガネはどのタイプもナチュラルに使いこなせるものばかりなので、これまでとは一味違った自分にチャレンジしてみるのもよいのではないだろうか。
「YELLOWS PLUS」
https://www.yellowsplus.com/
2001年にブランドを立ち上げ、2004年に香港の展示会に出展したのを切っ掛けに欧米市場に進出。現在も海外輸出が9割を占め、ヨーロッパやアジア諸国を中心に好評を得ている。独自の店舗は持たず、ヨーロッパでは3~400店舗に販売網を展開。国内では東京、大阪、博多などの都市圏を中心に約80店舗のアイウェアショップで購入することができる。
2021.08.02 Mon