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コラム

2016.7.1 FRI

アップルの思想と隠れた思惑が見え隠れする macOS名称変遷の歴史(後編)

アップルの思想と隠れた思惑が見え隠れする macOS名称変遷の歴史(後編)

2016年7月1日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)


"Mac OS"だった過去を持つ"macOS"。アップルの思想と思惑が込められたその名称の変遷を振り返る本稿の後編は、誰もが驚いたMac OS X v10.0の登場から始まる。

『アップルの思想と隠れた思惑が見え隠れする
 macOS名称変遷の歴史(前編)』はこちら


・バージョンナンバーのルールを破る

ジョブズがアップルに復帰できた最大の理由は、アップルを離れてから設立したネクストで開発したUNIXベースのOS、OPENSTEPを、次期Mac OSのベースにできるという点だった。その新OSは、UNIXの強固さとMacの使いやすさを兼ね備えるという触れ込みで、Mac OS 9の次にリリースされることになっていた。

順当に考えれば、それはMac OS 10と呼ばれて然るべきだが、それでは新OSがいかにもMac OS 9までの"Classic" Mac OSの延長線上に位置するようで当たり前すぎであり、インパクトに欠けてしまう。

そこでジョブズは、表記にひねりを加えてMac OS X(テン)とした。これならば、Mac OS 9からの連続性を残しつつ「未知なるもの」を意味する"X"によって、新しさも演出できる。

しかし、開発者コミュニティやメディアをザワつかせたのは、そのバージョンナンバーだった。というのは、その最初の正式リリースがMac OS X v1.0になるのかと思いきや、実際にはMac OS X v10.0だったからだ。これでは、次のメジャーアップデート後は、Mac OS X v11.xとなり、X(テン)の呼称と矛盾してしまうのではと懸念する声も聞かれた。

ところが、アップルは、メジャーアップデートでもv10の部分は変えず、コンマ以下の部分の数字を増やすという奇策によって、この問題を回避した。そして、元々は開発時のコードネームだったネコ科の猛獣名や、カリフォルニアの地名を前面に押し出すことで、バージョンナンバーそのものから一般消費者の意識をそらすことに成功したのであった。

原稿執筆時点での最新の正式リリースバージョンナンバーはv10.11.5だが、もはや細かい数字を気にするユーザーは殆どおらず、El Capitanという名前で言及することが普通になっている。

・OS統一の意図は存在した?

名称変更の好きなアップルは、2012年にリリースしたMountain LionでMac OS XからMacを割愛し、OS Xをデスクトップ/ノートMac用OSの正式な新名称とした。

現実には、1つ前のMac OS X Lionの時点でマーケティング面では、すでにOS Xと呼ぶようになっていたのだが、筆者は、この時点ではアップルは、やはり将来的に自社OSを統一する計画を持っていたのではないかと推測する。

Mac OS X Lionは、Mac App StoreやフルスクリーンモードなどのiOS由来の機能が取り込まれ始めたMac OS Xであり、Mountain Lionでは、その傾向がさらに強まった。もちろん、OSを統一したとしても、フルサイズのOS XをiPhoneやiPad上で動かすことは合理的ではない。そのため、サブセット的なものを用意することになったと思われるが、いずれにしても伝統あるMacの冠を外すにあたっては、それなりの要因と動機があったと考えるべきだ。

ちなみに、Mac OS X Lionが発表された2010年にはジョブズも存命中だったので、マーケティング的にOS Xと呼ぶことにした判断にも彼の意思が反映されていたはずである。シンプルさを好んだジョブズの指向性からしても、複数のOSが並列的に存在する状況を排除することは理にかなっていた。

そこでクック体制となった翌年に登場したMountain Lionで、ジョブズの遺志を反映する形でOS Xという名の正式採用に踏み切ったというシナリオは不自然ではない。

奇しくも、アップルのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長でMacとiOSデバイスの両OSを統括するクレイグ・フェデリギが、Mac OS Xの責任者となったのがMac OS X Lionからであり、同じく現職に就いたのがOS X Mountain Lionのリリースと同じ2012年のこと。NeXT時代からジョブズの下で働いてきたフェデリギに任されたのが、両OSの融合だったとしても話は通る。

そして、一度はその方向に向かったものの、開発を進めるうちに、クックもフェデリギもジョブズの理想主義には無理があるという結論に達し、コアは共通化しながらも、デバイスもOSも独自の進化をさせたほうが現実的であると軌道修正をしたのではないだろうか。

・一周回って落ち着いたmacOS

ということで、名称面でやや迷走した感のあったMac用OSは、表記は異なっても、かつてと同じ発音を持つ、"macOS"と呼ばれることになった。

確かに、キーノートプレゼンテーションの中でも指摘されたように、iOS、tvOS、watchOSの中にあって、OS Xの名称は仲間外れであり、だからこそ、それらすべての上に君臨する可能性もあったわけだが、結局は落ち着くところに落ち着いたという印象だ。

逆に統合化の縛りから名実ともに解放されたことで、macOSとiOSは、より自由な進化の道を辿ることも可能となった。たかが名称ひとつのことではあるが、そこにこだわるアップルだからこそ、今後のOSのロードマップにも期待させられるのである。


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大谷和利氏近影

[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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