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プロダクトデザイナーは語りたい! 〜小木曽槙一のライフハック「デザインのしゃべり場」〜

2024.01.19 Fri

挑戦の年!デザイナーに必要なマインドセット

2024年、デザイナーは「お金」や「売上」をより意識した働き方をしないといけない〇〇の理由

あけましておめでとうございます、こぎそです。今年もどうぞよろしくお願います。

2024年始にこの記事を書いていますが、「おめでとう」と素直に祝いの言葉が言えないような出来事が立て続けに起きました。特に令和6年能登半島地震により被災された方々、そのご家族の方々に心よりお見舞い申し上げるのと同時に、皆さまの今後の生活の安全と、被災地の一日も早い復興をお祈りします。

さて、とにもかくにも新たな年がスタートしたということで、あくまで個人的な観点も含まれますが、より一層、我々デザイナーが「働き方として意識するべきこと」について、いつもより真面目成分多めに語ろうと思います。

近年取り巻く景気・市況環境

働き方として意識するべきことを述べる前に、我々の取り巻く経済環境について振り返ってみましょう。

ここ数年、テック産業を含む多くのセクターが直面しているのは、市況環境の悪化です。特に、スタートアップやイノベーションを志向する企業にとって、資金調達の困難さは大きな障壁となっています。

Siiibo証券の記事によれば、2023年上半期の国内スタートアップへの投資金額は、前年度同期比で27.2%減少し、1,097億円にとどまっています。このデータは、国内のベンチャーキャピタルだけでなく、外国からの投資においても同様の傾向が見られることを示しており、国際的な市場の不確実性が高まっていることを物語っています。

米国に目を向けると、状況はさらに厳しくなっています。日経新聞からの引用ですが、2023年の米スタートアップ投資は、約24兆円と前年比で3割減少しており、投資環境の悪化が顕著に表れています。このような投資環境の悪化は、新規事業やイノベーションへの取り組みを計画している企業、特に初期段階のスタートアップにとって深刻な影響を与えています。

さらに投資環境の悪化の背景には複数の要因が存在しています。事象として大きい原因はCOVID-19パンデミックや、ウクライナ紛争など枚挙にいとまがないですが、市況環境悪化の直接的な原因は、長期金利上昇によるバリュエーション低下、資金調達コストの増加が挙げられます。現状、この市況変化が投資家のリスク許容度を下げ、慎重な投資判断を促しています。つまりいわゆる「不況」の入口と言っても差し支えないでしょう。

デザイン業界の現状と変遷

近年の市況環境の悪化を踏まえ、デザイン界隈の現在を紐解くと大きな変化が起きています。一言でまとめるなら「選択と集中」が加速している印象です。

2023年の象徴的な出来事として、国際的なデザインコンサルティング企業IDEOの日本撤退が挙げられるでしょう。

引用:https://jp.ideo.com/post/our-approach-and-values/

IDEOといえば「デザイン思考」の先駆的存在として有名ですが、この撤退は「デザイン思考」の衰退ではなく、いわゆるコモディティ化した結果だと読んでいます。
かつては革新的なアプローチとして注目されたデザイン思考が、現在では多くの企業や教育機関で採用され、独自性が薄まりました。この結果、新たな価値創出のハードルは以前にも増して高くなっています。

他方、インパクトとして大きいニュースは「ChatGPT」を筆頭とした生成AIとそれにまつわるテクノロジーの進化のスピードは目覚ましいものがありました。例えば、サイバーエージェントがディレクターの削減を行うといったAIの活用による効率化が進んでいます

この記事によると、サイバーエージェントで制作に携わる職種のうち、広告クリエーティブの出来栄えを判断するディレクター職が30〜40人いましたが、現在はゼロになっており、キャッチコピーをつくるコピーライター職も、生成AIが得意とする領域なので、いずれは不要になる可能性がある状態、一方、画像の作成やクリエーティブの最終決定を担うデザイナー職は3年で4倍近くに増え、現在は300人になった....ということです。

生成AIの事例については調べるだけでも相当数の事例が上がっており、特にこの記事でこれ以上述べるのも蛇足感があるので割愛しますが、テクノロジーのパラダイムシフトが起き、これまでのアウトプットのあり方が根本的に変わり、必要性が薄まった職業がある一方で、また別のデザイナー職が新たに生まれる...という現象が起きています。

デザイナーに必要なマインドセット

さて、このような状況の中、2024年を占うわけではありませんが、今後デザイナーに求められるのは「お金」や「売上」に対して敏感になり、迅速に価値の創出を行う能力...だと筆者は考えます。

「コスト」の自覚と説明責任:
企業活動は利潤・利益を追求する集団であり、まず売上を上げることが至上の目標となります。改めて考えてみてください、我々デザイナーはなんのためにプロダクトやコミュニケーションをデザインしているのでしょうか?優れたユーザー体験を生み出すため?美しいビジュアルを作るため?企業ブランディングのため?円滑に開発を進めるため?

これら行為はあくまでプロセスでしかなく、最終的に求められるものは事業への直接的な貢献です。誤解を恐れず言うなら、デザイナーやエンジニアなど、会社組織に所属する開発者は価値を創出するまでは「コスト」であり、ビジネスサイクルの歯車のひとつでしかないです。

したがって我々デザイナーは、自分たちの仕事が企業にとってどのような価値をもたらすのかを理解し、それを明確に示す責任があります。効果検証が必要な場合は、それを含め、我々が扱う「デザイン」という行為が、投資したコストに見合う価値が提供できるのかを説明し、証明する必要があります。

常に「なぜ?」を問い続ける:
例えばデザイナーのうち「プロダクトデザイナー」はUIの統一やデザインシステムの構築、ユーザビリティテスト...などさまざまな活動とアウトプットを生み出しますが、我々がなぜこのアウトプットを出すのか?それは開発効率を上げ、プロダクトの品質を向上させ、中長期的な利用者満足度を高め、結果としてチャーンを防ぐためです。

これはあくまでほんの一例ですが、デザイナーとしては、これらのアウトプットがなぜ重要で、どのようなアウトカムを出せるのかを常に意識し、関係者に対してその価値を説明する義務があります。

そのためには「なぜやるのか?」「なんのためのアウトプットか?」を意識し、イテレーションを繰り返し、ゴールやビジョンを研ぎ澄ましていく必要があるでしょう。

終わりに

年末に飲み会の記事を書いていたとは思えないほど真面目に書いて消耗しました....。さて2024年の幕開けとともに、我々デザイナーは過去にないほどの変化に直面する年なのかもしれません。

2022年から始まる市況環境の悪化やIDEOの撤退、新たなパラダイムシフトを起こすとされる生成AIの台頭は、私たちデザイナーに新たなマインドセットとアプローチを要求しています。個人として考えるのは、これらの変化をただ受け入れるのではなく、それらを自分の強みに変え、企業や社会に対して真の価値を提供できる人材になることです。

「コスト」としての自覚と、「売上貢献」という結果への責任を持つことは、デザイナーとしての自己認識を変える第一歩です。この認識を持って、私たちはより戦略的に、そして効果的にデザインの価値を提案し続けなければなりません。

そんなこんなで、筆者個人は2024年は「挑戦の年」だと捉えています。プロダクトデザインはもちろんすべての「デザイン」行為によって培われたマインドを「ビジネスの価値」として接続し、証明する機会とも言い換えれるでしょう。

この変化の波を、2024年の荒波を楽しんでいきましょう。それでは今年もよろしくお願いします。

小木曽 槙一
プロダクトデザイナー
受託制作会社でデザイナー・エンジニアとして勤務後、事業会社のデザインエンジニアとしてプロダクト開発に従事。2020年より株式会社SmartHRに入社し、基本機能や従業員サーベイ機能の開発設計に携わる。デザインシステムやUIコンポーネントの開発など、社内横断プロジェクトにも参画。パラレルキャリアを標榜し、副業でエンジニア・デザイナー・アドバイザーとして活動中。著書に『ちいさくはじめるデザインシステム(BNN)』など。
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