第36回 木村豊(Central67)
音楽がデザインを呼ぶ
さまざまなジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はセントラル67の木村豊さんを取材しました。数多くの有名ミュージシャンのアートワークを担当する現在までの足跡をたどり、デザインを志した「原点」を振り返っていただきましょう。
第4話 配信時代にするべきこと
下北沢のオフィスにて、木村豊さん
──いまもジャケット中心に?
木村●はい。メインです。
──最近、音楽業界的に冷え込んでいる状況を感じたりは?
木村●確実に予算は減ってますね。仕事量的には減ってないのですが。だから、なるべくコンパクトにまとめるようにしています。それでも、アーティスト写真も欲しいと言われると、スタイリストやメイクを立てなければならない。ジャケットだけなら全然予算内に収められるのだけど。ジャケットは写真がなくても作れますからね。
──それが別枠になっているアーティスト、少ないですよね。
木村●そうですね。そのへんは難しい。
──いま事務所は何人で?
木村●アシスタントが二人です。
──仕事的には満足できる態勢で?
木村●満足はしてますが、ちょっとキツいと言えばキツい。キャパシティ的に。でも人を増やすのならば、ADをもう一人という増やし方をしないと。
──具体的に事務所を大きくしようというお考えも?
木村●うーん……大きくしたら、今度それを維持するも大変ですよね。間違えた方向に行ってしまいそうで。基本的には音楽モノを中心にやっていきたいので、音楽を好きじゃないと一緒に仕事できないのではないかと思います。
──今後、やってみたい仕事は?
木村●完全になくならないまでも、ジャケットは今後どんどんなくなっていくと思うので、作る人は減ると考えると……でも、なにかしら表現しないとならない部分はあるじゃないですか。ビジュアル面で。それの替わりになるものは何かと考えることはあります。それがアーティスト写真なのか、Webで見せるものなのか……
──宣伝ツール、変わりがあるようで実はあまり変わってないんですよね。
木村●そうなんですよ。単純に紙に印刷されているのか、画面で見るのかって違いだけで。作る側の意識が、そんなにドラスティックに変わっているわけではないんですね。個人的には、紙モノが少なくなっていくのは寂しいですが。
──紙フェチ?
木村●紙フェチです(笑)。音楽もアナログのジャケットの質感が好きで。あとダウンロードだけだと、持っている感じがしないんですよね。若い人だと、買ったCDをリッピングしたら捨てちゃうっていう人もいるという話を聞きますが……単純にデータだけにしたら部屋のスペースも空くんだけど、今度は聴かなくなると思うんですよ。ジャケットの見た目で判断することもあるじゃないですか。次、これを聴いてみようとか。文字で羅列されていても、聴く気がしない。
──独立してちょうど10年。思い描いていたイメージ通りにきてますか?
木村●そうですね。最初から「コレがやりたい」とずっと思ってきたことをやっていますので。まさにドンピシャできていると思います。ストレスもなく。たまに全然関係ない広告の仕事とかもするのですが、やっぱり続かない。
──やろうと思えば続けられる?
木村●ええ。自分から積極的にやろうとしていないだけで、もちろん来ればやるんですけど。
──エディトリアルは?
木村●いま『音楽と人』という雑誌をやっています。10年ぐらい前にやってて、一回辞めて、去年からまた再開したんです。大変ですけど、まあ音楽雑誌なので、ジャケットの延長線上でやれています。
──バランスはとれている?
木村●ええ。雑誌は雑誌でライブ感もあるし。スケジュールは厳しいですが、それはもう仕方がない。
──では、最後にアドバイスを。
木村●好きなことをやることが、デザイナーとしては一番かと思います。経験上、無理してアッチもやらなきゃコッチもやらなきゃっていうよりも。音楽じゃなくても、服が好きならファッションのデザイナーでもいいし。まずデザイナーになるという気持ちありきではなく、好きなものを見つけることが大事。あまりにも範囲が広いじゃないですか、デザインって。だから、なんでもできる方は逆にすごいと思う。
木村さんの仕事より
上/『音楽と人』(USEN)
AD&D:木村
下/フルカワミキ『Very』(2010年/キューンレコード)
AD&D:木村豊/PH:鈴木心
今回で木村豊さんのインタビューは終わりです。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] きむら・ゆたか●1967年生まれ。日本デザイナーズ学院卒業後、アルバイトで「CBSソニー」に勤務。その後、デザイン事務所での勤務を経て、95年に独立。個人事務所「Central67」を主宰し、現在に至る。http://central67.wipe.vc |